もくじ
- 立山登山 準備編
- 立山登山(その1) 富山市内で前泊、黒部ダム見学後、室堂 雷鳥沢野営場へ
- 立山登山(その2) 室堂乗越までハイキング、雷鳥沢野営場でテント泊
- 立山登山(その3) 一の越・立山三山・真砂岳・別山乗越 剱御前小舎を縦走
- 立山登山(その4) 室堂から富山へ下山
9月4日(水曜) : 大阪から富山へ
立山黒部アルペンきっぷ
今回の立山テント泊は、JRの特別企画乗車券「立山黒部アルペンきっぷ」を使って出かけることとする。
大阪発のきっぷの価格は去年が26,940円、今年は29,540円。
値上がり幅が9.7%(2,600円)と消費者物価指数 CPI(7月の前年同月比 総合指数+2.8%,交通+1.2%)を遥かに上回るボッタクリ値上げだが、個別に切符を買う場合と企画乗車券の費用比較はつぎのようになり、今回の旅程では1万円の割引になっている。
区間 | 通常運賃 | アルペンきっぷ |
---|---|---|
大阪〜富山 | (運賃)5,720円 (特急料金)4,370円 | 29,540円 |
電鉄富山〜立山 | 1,230円 | |
立山〜黒部湖(往復) | 16,480円 | |
立山〜電鉄富山 | 1,230円 | |
富山〜大阪 | (運賃)5,720円 (特急料金)4,370円 | |
合計 | 39,120円 | 29,540円 |
自宅近所のJR新福島駅のみどりの窓口で切符を購入し、同時に往路の富山までの指定券予約をする。
大阪駅から富山駅へ
きっぷ購入後、JR環状線の福島駅まで歩き列車に乗車。
■ JR環状線 福島駅 17:15発 → 大阪駅 17:17着
■ JR京都線・湖西線 特急サンダーバード 大阪駅 17:40発 → 敦賀駅 19:00着
途中停車駅の京都を出た段階で、列車は窓際の席がすべて埋まっている程度の乗車率となる。出張から帰るサラリーマンがほとんどだ。
特急サンダーバード 683系(B37編成 682-4313)の車内
夕暮れのオレンジ色からだんだん暗くなる琵琶湖の景色を眺めていると、すぐに敦賀駅に到着する。
北陸新幹線の延伸開業直後には、敦賀駅での乗り換え動線が長く列車の出発に間に合わない乗客が続出などと報道されていたが、全くそんなことはなかった。プラットホームが上下階に重なっていて、ほぼ最短コースで乗り換えられるので便利だと感じる。
■ JR北陸新幹線 つるぎ 敦賀駅 19:09発 → 富山駅 20:17着
新幹線も窓側の席が全てうまる程度の乗車率で、かなり空いている。
列車は長さ19.8kmの新北陸トンネルを通り抜けると、どんどん速度を上げて260km/hに達する。
在来線特急の最高速度は130km/h、北陸新幹線の最高速度は260km/hなので、敦賀より先は倍速で進むことになる。新幹線効果、恐るべしだ。
在来線と新幹線の最高速度を、登山用GPSアプリで実際に測ってみた
今回乗車した「つるぎ号」は、福井・金沢・新高岡の3駅にしか停車しない速達列車だ。たった1時間ほどで富山駅に到着した。
富山駅から富山地鉄 新庄田中駅へ
JRの駅舎を出て、すぐ東隣にある電鉄富山駅へ。富山地鉄とアルペンルートの切符売り場があるが、どちらも営業時間外で閉まっている。連休などの混雑時期に、立山駅の窓口で販売制限に引っかからないため、ここで立山ケーブルカーの出発時刻の指定を受けた切符を買えるとのこと。明日は閑散期の平日なので、足切りに合う心配はまったくない。
電鉄富山駅のきっぷ売り場(営業時間:地鉄 07:00〜19:00、アルペン 07:30〜11:00)
電鉄富山駅で上市ゆきに乗車 (もと京阪電鉄3000系が、10030形として富山を走る)
■ 富山地鉄 電鉄富山駅 20:39発 → 新庄田中駅 20:43着
通勤客に混じって2駅ほど乗って、住宅街の無人駅で下車。JRの「立山黒部アルペンきっぷ」復路券で富山地鉄は8日間乗り放題になっている。
ネットカフェ 快活CLUBに宿泊
街灯が少ない住宅街を南へ。頭上には夏の大三角形などの1等星だけでなく、3等星くらいまでの星々が見えている。
大阪市内より遥かにたくさんの星が見える。
マクドナルドの駐車場を通り抜けて国道41号に出ると、すぐ東側に快活CLUBの巨大な建物がある。
受付のお姉さんは、「平日なので1人分の料金で、ペアフラットシートが使える」と案内してくれたので、広めのそのブースを選択した。
今回の登山は、当日の天気を見て急遽決めて荷造りしたので、いくつか忘れてきたものがある。その一つが45リットルのポリ袋。寝ている間、ザックをテントの外の地面においておくときに必須ツールだ。
快活CLUBの隣にローソンがあるので、そこでポリ袋を購入した。実際には2枚しか使わないが、10枚入り...。
ローソンで購入した「富山地区広域圏 指定ごみ袋 45L×10枚」163円
9月5日(木曜) : 富山からアルペンルート観光
6時間ほど寝て、5時過ぎに起床。6時になると受付前に朝食用の「無料トースト」が出現。朝食付きで、12時間パック2,310円は登山の前泊には良い場所だ。
6時55分に快活CLUBをチェックアウトし、5分ほど歩いて富山地鉄の新庄田中駅へ。
富山地鉄 新庄田中駅から立山駅へ
通勤時間帯なので、単線の路線だが次々と列車がやってくる。京阪電鉄の旧3000系電車や東急電鉄の旧8590系など、各社の車両がやってくるので楽しい眺めだ。
■ 富山地鉄 新庄田中駅 07:15発 → 立山駅 08:16着
通学する高校生が下車すると、終点の立山駅まで2両編成の車内は窓側の席が全てうまる程度の乗車率。1車両にクロスシートが12列なので、1両あたり24人、2両編成で50人ほどの乗客数だ。このうち半数は通勤客風なので、立山ケーブルカーに乗り継ぐのは多く見積もって30人くらいか...。
ケーブルカーの定員は120人だそうなので、積み残しは起こらないだろう。
有峰口駅で登山スタイルの女性が2名下車したが、この時期は折立行きのバスは休日にしか出ていないはずだ。タクシーで行くのだろうか。Google検索すると、運賃は15,000円くらいだそうだ。
アルペンルート : 立山駅から黒部湖駅へ
立山駅に到着し、駅前ロータリーに面したアルペンルートのきっぷ売り場へ。列車の先頭車両から真っ先に降りたので、まだ誰も並んでいない窓口で「立山黒部アルペンきっぷ」の復路券を見せて、アルペンルートの「乗車整理票」を受け取る。
アルペンルート立山駅 (駅前ロータリーより撮影)。窓口の行列は右側に伸びている
このきっぷは磁気券ではなく、駅員がハンディスキャナーで読み取るQRコード券だ。ケーブルカーの乗車時刻が印字されている。
なぜ、ケーブルカーの乗車時間が指定なのか。ここが輸送能力のボトルネックで、週末・連休などに積み残しが発生するからだ。アルペンルートの運行会社が平成31年に富山県に提出した改善計画書には、次のような記述がある。
なんと、休日には行列は最短で60分、最大で240分と書かれている。ゴールデンウイークには5時間待ち...。そんなに並んでまで見る価値あるのかねぇ。
運営会社側は「増発努力します」と回答しているが、国立公園の自然を守るためには客数を制限するのが正解で、これ以上増発してどうすんだと言いたい。日本は欧米先進国に比べ、国立公園の山岳地に観光客を入れすぎている。
まだ誰も並んでいない立山ケーブルカーの改札口に並ぶ。モニターには「臨時 8:30発」と表示されているが、これは団体ツアー客のための専用列車の時刻だ。
■ 立山ケーブルカー 立山駅(標高475m) 08:40発 → 美女平駅(標高977m) 08:47着
標高差 約500mを一気に登っても、まだ標高3,000mある立山の1/3まで到達したに過ぎない。そして、標高差で言えば大阪近辺で同等かそれ以上の路線がある。
路線 | 延長 | 標高差 |
---|---|---|
叡山ケーブル | 1,458m | 561m |
六甲ケーブル | 1,764m | 493m |
立山ケーブルカー | 1,366m | 487m |
ケーブルカーの車窓左側に、「材木石」と呼ばれる火成岩の柱状節理
美女平バス停の改札口には、1本前の臨時ケーブルカーの乗客が行列を作っている。高原バスは、積み残しが無いよう次々とバスが増発されるので、待っていればすぐに乗車できる。
■ 立山高原バス 美女平(標高977m)08:55発 → 室堂(標高2,450m)09:37着
バスはほぼ満席で美女平バス停を出発。私の隣の窓際に座っているのは、地元の富山から来た登山者の女性。今日の天候を見て登山にやってきたそうだ。
富山市街地の近くにあり登りやすい「近隣の山」は、熊が出るので気軽に行ける場所じゃなくなったので、登山と言えば立山など著名な山になるらしい。(交通費、高そう...)
そうはいっても、近隣地域の人は「天候を見てから出発」ができるので、羨ましい限りだ。
大阪の近隣の山に熊は出ないのか聞かれたが、六甲山や生駒山で熊が出た話は聞いたことがないと答えると、「いいねぇ」と言われてしまった。逆の立場で考えれば、費用的にも気合を入れていかないといけない「近隣の北アルプス」より、通勤電車で200円くらいで行ける六甲山地や生駒山地のほうが頻繁に登れて羨ましいという価値判断もあるのかもしれない。
かつての登山記録などを読むと、「ブナ坂」「ブナ平」という地名が出てくる。立山駅のある芦峅寺・千寿ヶ原の山小屋が登山口だったというような記述もあり、かなり長距離を歩いて立山に登っていたようだ。現在でも、立山ケーブルカーや高原バスの走る道路に沿って登山道・トレッキングコースが室堂まで整備されているので、徒歩で行けないことはないのだろう。 ヤマレコのルート検索でコースタイムを出してみると、上りで9時間20分だそうだ。
ケーブルカーと高原バスで1時間で行けてしまうのだから、便利になったものだ。
ブナ坂を登りきり、ブナ平に入ったあたりの道路沿いに杉の巨木がある。仙洞スギと呼ばれる樹齢300年・幹周り約9.4mの杉の巨木。高原バスは徐行して写真撮影の時間を取ってくれる。
美女平から約3km地点。高原バスから見た「仙洞スギ」(ブナ平立山のスギ)
美女平から約4.7km地点(標高1,280m)。高原バスから見た「称名滝(しょうみょうだき)」
日本一の落差で4段の合計落差350mの滝が、称名峡谷を挟んだ1.5kmほど向こうにかすかに見えている。もう少し秋が深まり湿度が下がれば、クリアに見えるのだろう。この滝見台でもバスは徐行してくれる。
標高が上がるにつれ、しだいに雲が多くなってくる。弥陀ヶ原の草原・低木は紅葉がまだ始まっておらず、青々と葉を茂らせている。
乗降客が無く途中の停留所を全て通過したため、高原バスは時刻表より10分早く室堂ターミナルに到着した。
高原バスが少し早めに到着したため、予定より1本前のトロリーバスに乗り継ぐことができた。
室堂ターミナルで立山トンネル トロリーバスに乗り継ぐ
このトロリーバスの車両は今年末で廃棄され、来年からはEVバスに入れ替えられるそうだ。
■ 立山トンネル トロリーバス 室堂(標高2,450m) 09:45 → 大観峰(標高2,316m) 09:55
立山トンネルは雄山直下の深さ約610mを貫通していて、トンネル壁面に「標高2,391m」の標識が取り付けられている。ちょうどこの場所は、バスがすれ違う行き違い信号所にもなっている。
立山(雄山)直下を通過する立山トンネル トロリーバス (帰路に撮影)
頂上直下を通過したすぐ先、トンネル照明が青い光になる。トンネルが断層面を通過する破砕帯で、この約50mの区間を掘削するのに1968年9月から翌年11月まで約13ヶ月間掛かった工事の難所だった場所だ。
青い照明で照らされた破砕帯の区間を通過する立山トンネル トロリーバス (帰路に撮影)
地質図にも、トンネルが断層を横切っているのがはっきりと書かれている。
トンネルは大観峰バス停に達する前に大きくカーブし、3.7kmの出口に達する。
次に乗るのは立山連峰の東斜面を一気に500mほど下降する立山ロープウェイだ。トロリーバスを下車し、ロープウェイの改札口に向かう。並んでいる人は1人だけだった。
■ 立山ロープウェイ 大観峰駅(標高2,316m)10:10発 → 黒部平駅(標高1,828m)10:17着
午前中は逆光だが、それでも後立山連峰の山々が一望できる。
手前の山脈の左から鳴沢岳・赤沢岳 ... 針ノ木岳。左の奥の山脈には爺ヶ岳。眼下に見えるのは、もちろん黒部ダムがせき止めている黒部湖だ。
ロープウェイ 大観峰駅付近から北東方向(左斜め前方向)の眺め
視線を少し左に向ければ、鹿島槍ヶ岳が見える。
黒部ダムに至る最後の乗り物、黒部ケーブルカーの駅改札は20人くらいの客が並んでいる。
■ 黒部ケーブルカー 黒部平駅(標高1,828m)10:30発 → 黒部湖駅(標高1,455m)10:35着
黒部ダム
駅から長い水平トンネルを歩いて水密扉を抜けると、黒部ダム(黒部第4ダム)の天端に出る。
ダムはアーチダムだが、両端部分が上流方向に折れ曲がったウイングダム(重力ダム)となっている。上の写真で、通路の向こうで90度折れ曲がっているのが、アーチ部分からウイング部分への接続部。
黒部ダムの平面図 (ここから転載)
黒部ダム堤体のダム湖側。対岸は赤沢岳の岩塊で、ダム湖右岸側に取水設備
黒部ダム 中心線上の天端から下流を見下ろす。ハウエルバンガーバルブ2門から放流が行われている
黒部ダムの断面図 (ここから転載)
この図から天端道路EL=1454m、河床EL=1268mなので、堤高 = 1454 - 1268 = 186m であり、日本一の高さとなっている。天端道路から見下ろした減勢工床(水叩部)までの高さとほぼ同じなので、結構高度感を感じる。
ダム湖のはるか向こうに見える山塊は、水晶岳〜赤牛岳あたり。黒部源流の山々だ。
黒部ダム 右岸側から見たアーチ部分の天端道路。背後の山は立山(雄山)
黒部ダムの堤頂長は492mだが、アーチ部分だけの堤頂長は(地理院地図で計測し)約350mほど。
この取水施設から黒部川第四発電所まで、導水路トンネルが約10.4km、高さ545mを流れ下る水圧鉄管が722m続いている。取水量 72m^3/secで、最大発電量 337 MW というのが発電所の定格。
水の位置エネルギーから発電効率を見てみると
位置エネルギー = 72000 kg/sec × 9.8 m/sec^2 × 545m = 384.552 × 10^6 kg m^2 / s^3 = 384.552 MJ/s (MW)
発電エネルギー = 337 MW
効率 = 337 / 385 = 87%
火力発電の効率が50%程度なので、水力すごいね。
黒部ダム・黒部川第四発電所 導水模式図 (ここから転載)
黒部川水系 発電導水略図 (ここから転載)
放流用のハウエルバンガーバルブは5門あるが、この日は中段の2門から放流されていた。
黒部ダムの堤体に取り付けられた点検歩廊(キャットウォーク)に、維持管理社員2名が見える
フルハーネスの安全ベルトをしているが、サビが目立つ歩廊にロープを掛けたところで万全の安全性とは言えないだろう。まさに、体を張ったすごい職業だ。
右側のトンネル入口は扇沢に向かうバスのりばの入口だが、今回の立山黒部アルペンルートの旅行はここで引き返して室堂(雷鳥沢)でテント泊。
アルペンルート : 黒部湖駅から室堂駅へ
アルペンルートのなかで、黒部湖駅の内装は年季が入った感じを受ける。立山駅から黒部ダムで折り返してここまで、改札口に行列ができていることはほとんどなかった。やはり、閑散期の平日に来るべきところだと思う。
■ 黒部ケーブルカー 黒部湖駅(標高1,455m)11:10発 → 黒部平駅(標高1,828m)11:15着
路盤の右側に「400」と白くペイントされている。路線長が828mなので、ここが中間地点の「400m」だということだろう。
ツアー客専用の臨時便が11:20に出たのち、11:30発の定期便に乗車。定期便に乗る一般客は、ロープウェイ定員の半分以下だ。
■ 立山ロープウェイ 黒部平駅(標高1,828m)11:30発 → 大観峰駅(標高2,316m)11:37着
往路の天気はまだ青空が見えていたが、復路はほぼ曇り空となった。縦山の稜線は完全に雲に覆われているようだ。
トロリーバスの改札口には、珍しく短い行列ができていた。さらには、台湾から来たツアー客も団体専用改札に並んでいる。
トロリーバスは臨時便を運行して客をさばくのではなく、同時に出発する車両数を増やして対応するようだ。
■ 立山トンネル トロリーバス 大観峰(標高2,316m)11:45 → 室堂(標高2,450m)11:55
停留所のプラットホームには、4号車までの停車位置プレートが掲げられている。大阪車輌工業製の8000形車両は8両あるので、全車両を投入すれば4両を団子状態で運用できるはずだ。1両で72人運べるので、130人程度のロープウェイやケーブルカーよりも大人数を輸送できる。
室堂駅から雷鳥沢野営場へ。火山ガス濃度高まる
観光客で混み合う室堂ターミナル1階、きっぷ売り場と改札口がある
注目点は「熊注意」のところ。一の越あたりで、1ヶ月間に3回も目撃されている。
雨は降っていないが、地上付近まで雲が掛かっているところもあり、景色は良くない。その代わり、直射日光を浴びずに涼しく雷鳥沢まで歩くことができそうだ。
大きな石を埋め込んだコンクリート舗装の歩道を歩いていくと、ミクリガ池あたりまでは多くの観光客が行き来している。
ミクリガ池をすぎると観光客の数が減り、アップダウンも大きくなる。遠くから防災無線のような屋外スピーカーからの放送が聞こえてくる。
" 現在、エンマ台から雷鳥荘の間で 火山ガス濃度が上昇しています。 水に濡らしたタオルで口や鼻を覆い、速やかに通過してください " (女声の自動アナウンス)
みくりが池温泉の建物を過ぎて坂道を登っていくと、雷鳥沢に向かう歩道は地獄谷を一望できるエンマ台を通過する。この高台に火山ガス情報ステーションがあり、すぐ脇にある観測装置のパトライトが光って、スピーカーから大音響で警告文を放送している。
しばらくすると、ガス濃度が更に上がったらしく、今度は逼迫した雰囲気の男声版の警告文が流れた。
" 現在、エンマ台から雷鳥層の間で 火山ガス濃度が制限値を超えています。 この場で待機してください "
警告放送装置の脇にある立て看板によれば、火山ガス濃度が
・ 2ppm 〜 5ppm : 速やかに通過
・ 5ppm以上 : 通行止め
という基準があるようだ。
海風(谷底から立山方向に風が吹き上がってくる)のときには、エンマ台と雷鳥荘の間の鞍部(コル)に地獄谷で発生したH2S(硫化水素)やSO2(亜硫酸ガス)が吹き上がってくるのだろう。
エンマ台から雷鳥荘方向。地獄谷からリンドウ池に続く谷を火山ガスが吹き上がってきて、雷鳥荘がほぼガスに包まれている
エンマ台から見た、雷鳥荘に続く尾根に沿った歩道。左側がリンドウ池の谷、右側は血の池地獄の谷
リンドウ池の谷を吹き上がってきた火山ガスは、谷筋の最も低いところを通過して一の越方向に流れていく。ちょうど尾根に沿った歩道を火山ガスが通過していくので、濃度が上がればここが通行止めになる。
リンドウ池側の斜面に生えていたハイマツは、火山ガスで枯死して枯れ枝だけになっている。いっぽう、右側の血の池側の斜面や谷底の木や草は緑色で問題なさそうだ。谷底から吹き上がってきた火山ガスは空気より比重が大きいが、称名川を吹き上がってくる海風の大きな流れに沿って谷底に再び降りていくことはないのだろう。
つまり、歩道のある尾根を超えたガスが、雷鳥沢の谷底に向けて降りていくこともないはず... (希望的観測?)
火山ガスの量が増えて濃度警告が頻発するということは、火山活動が活発になっているということ。もしかしたら、弥陀ヶ原火山が再噴火する可能性もすこしはあるということだ。
Webで調べてみると、小規模な噴火が起こっても雷鳥沢野営場は噴石などが降り注ぐ予想となっている。
ハザードマップを参考にすれば、火口から遠ざかる方向、劔御前小舎または大走を登って真砂岳に向けて逃げるしかなさそうだ。
現地看板『火山ガス濃度上昇のため通行注意』
弥陀ヶ原の概要
過去1万年以内の活動により,火山灰層が7層になっていることから,少なくとも7回の噴火が起きており,噴火口は地獄谷周辺や血の池地獄周辺,称名火口や大谷火口群などであったとみられる。現在,地獄谷周辺では活発な噴気活動がみられ,地獄谷周辺地下にキャップロックやガス溜りの存在が示唆されているほか,膨張性の地殻変動も観測されている。そのため,他の噴気活動がない地域と比べ噴火が発生する可能性は,最も高いと考えられる。
弥陀ヶ原火山噴火緊急減災対策砂防の基本理念(https://www.hrr.mlit.go.jp/tateyama/jigyo/sabo/plan02_1.pdf)より
弥陀ヶ原 過去1万年以内の噴火活動(弥陀ヶ原火山の完新世噴火履歴解明報告書 石崎,2017)
弥陀ヶ原火山避難計画 令和6年(https://www.pref.toyama.jp/documents/39410/)よりsiryou3-2.pdf
1500年前以降 大安地獄 2500年前 地獄谷北域 4800年前 地獄谷北域、血の池地獄 7800年前 血の池地獄〜りんどう池 9300年前 称名火口
弥陀ヶ原火山と、室堂から雷鳥沢までの登山道
(「立山火山をみる」中野俊 2000年秋 富山と自然に掲載されている火山地図に、地理院地図を合成した)
雷鳥荘をすぎると、称名川の谷底に雷鳥沢野営場が見えてくる。平日なので、テントの数はそれほど多くなさそうだ。
延々と続くかと思える階段を、谷底まで標高差100m降りていく。
雷鳥沢野営場に到着
かつて、北アルプスのテント場の多くは500円/日だった。コロナ禍と自民党の強制インフレ(価格転嫁政策)で、いつの間にか平均料金が2,000円/日になっている。雷鳥沢の1,000円が安く感じるのは、世の中のぼったくり価格転嫁で感覚がマヒしてしまっているからだろう。
国営なのでコロナ前から大幅な値上がりがしておらず、テント泊は1泊1,000円とリーズナブルだ。その上、井戸水が豊富でトイレの小便器や洗面台の水栓が「全開・かけ流し」方式で、水使い放題なのもありがたい。