27 September 2021

弓折岳・鏡平へ紅葉狩り その2:新穂高からシシウドヶ原

北アルプスの弓折岳・鏡平に日帰りで紅葉狩りに、シルバーウイークが終わった直後の「平日」に出かけた。計画では双六小屋まで往復するはずだったが、途中で足がこむら返りを起こしたため、弓折乗越から先をあきらめて引き返した。

天気予報では曇り時々晴れ、昼過ぎからにわか雨の予報だったが、実際は午前中は快晴、お昼ごろに稜線上を雲が覆い尽くすといった具合だった。なおこの日の夕方には、先週に続いて中崎尾根付近で群発地震が発生していた。

もくじ

弓折岳・鏡平へ紅葉狩り その1:準備
弓折岳・鏡平へ紅葉狩り その2:新穂高からシシウドヶ原
弓折岳・鏡平へ紅葉狩り その3:シシウドヶ原から鏡平を経由し弓折岳・そして下山
登山後に緊急事態宣言下の高山に1泊

ヤマレコの記事 『弓折岳・鏡平(紅葉、新穂高より日帰り)

GPSログ

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主要ポイント間の所要時間

区間通過時刻今回の
所要時間
前回2017/9の
所要時間
標準コースタイム
新穂高 〜 中崎橋05:47 〜 06:2639分42分60分
中崎橋 〜 笠新道分岐06:26 〜 06:348分12分10分
笠新道分岐 〜 わさび平小屋06:34 〜 06:4410分15分10分
わさび平小屋 〜 小池新道入口06:44 〜 06:5915分15分20分
小池新道入口 〜 秩父沢06:59 〜 07:3233分34分60分
秩父沢 〜 シシウドヶ原07:42 〜 08:2947分54分90分
シシウドヶ原 〜 鏡平山荘08:38 〜 09:2042分39分60分
鏡平山荘 〜 弓折乗越09:20 〜 10:0949分46分60分
弓折乗越 〜 弓折岳10:11 〜 10:2312分------
弓折岳 〜 弓折乗越10:38 〜 10:4810分------
弓折乗越 〜 鏡平山荘10:51 〜 11:2433分31分30分
鏡平山荘 〜 シシウドヶ原11:33 〜 12:0229分29分40分
シシウドヶ原 〜 秩父沢12:02 〜 12:3937分39分50分
秩父沢 〜 小池新道入口12:44 〜 13:1632分30分40分
小池新道入口 〜 わさび平小屋13:16 〜 13:3317分15分20分
わさび平小屋 〜 新穂高温泉13:33 〜 14:2552分49分65分

登山口の新穂高(標高1,080m)へ

ことしから新たに運行が始まった「大阪・京都 ー 新穂高」の直通夜行バスに乗った。新穂高到着が5時50分と、登山にピッタリの時刻設定。3列シート定員28人のバスに乗客は7人ほどで、コロナ対策としては好ましいが、採算割れ・将来性無しと判断されて今年限りで運行打ち切りになる恐れもある。

■ 近鉄バス 大阪・東梅田 21:35発 → 高山・新穂高 05:35着 (運賃 8,000円)

大阪を定刻に出たバスは、京都駅を経由し何人かの客を乗せた。休憩は途中1か所、草津パーキングエリアに23時10分から30分間の停車のみ。コンビニで明日の朝食となるおにぎり2個とinゼリー1パックを購入(459円)。

PAの駐車場には次々と高速バスが入ってくるなか、上高地行きのアルピコ交通のバスも見かけた。あちらのバスは、予約サイトから推測すれば「満席」だ。

ここから先、ぐっすりと寝ていてほとんど記憶がなく、車内放送が入ったJR高山駅の手前で起きる。ここで1名下車。そして次の平湯温泉で1名下車。残りの客が登山者ということになる。平湯温泉で4時55分から10分間の運転停車している間、バスの窓から外を見ると薄明の空に星が出ている。雲ひとつない快晴のようだ。

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新穂高に到着した夜行の近鉄バス

バスが平湯温泉を出発し新穂高に着くまでの30分ほどの間に、コンビニで買ったおにぎりとinゼリー、自宅から持ってきたサラダチキンの朝食を済ませる。

5時35分、終点の新穂高ロープウェイ駅でバスを下車。200mほど高山方向に戻ったところにある新穂高センターに行く。ここには綺麗なトイレのほか、登山届の提出ポストがある。

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高山市立 新穂高センター(標高1,080m)

間もなく日の出、蒲田川左俣谷の間に見える笠ヶ岳から抜戸岳の稜線が、朝日で真っ赤に染まる。

新穂高登山指導センターの対岸(右岸)には、北陸電力の中崎発電所がある。「中崎」は取水口のある地名で、ここから蒲田左俣谷を約3.1km行った所にある中崎取水所のことだ。これから登るルート上でもある。

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新穂高の北陸電力中崎発電所

新穂高(標高1,080m)〜わさび平小屋(1,400m):所要57分

恵橋を渡り、発電所の前を右折して蒲田川左岸を上流方向へ。道なりに10分ほど行くと蒲田左俣林道の車止めゲートがある。

ここには、北アルプス裏銀座の登山地図、治山工事の看板、登山届のポストがある。目新しいものといえば、先日9月19日の中崎尾根を震源とする地震で、岩壁が林道に崩落したことを伝える警告立看板が付け加わっている。

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蒲田左俣林道の車止めゲート(標高 1130m)

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地震 落石注意看板

林道は谷底を通っているので、日の出直後の太陽光は全く届いていない。その薄暗い林道を、何人かの登山者が、上流を目指して黙々と歩いている。

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蒲田左俣林道と朝日が当たり始めた笠ヶ岳稜線

新穂高から約25分(約2.0km)のところまでやって来ると、お助け風穴がある。昼間にここを通りかかると、冷たい風が岩の隙間から吹き出してくるところだ。

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お助け風穴(標高1250m)

風穴は、はるか以前に崩落した岩が積み重なっている場所だ。ところで、先週の地震で崩れたところは一体どこなのだろうか。さらに先へ進むと...

新穂高より約35分(約2.8km)の地点が、Twitterに掲載されていた写真と同じ崩落箇所だとわかった。林道を塞いでいた岩は既に林道脇に寄せられているが、その岩の割れた断面が真新しいことが、崩落直後だと気づかせてくれる。

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9月19日の地震で崩落した場所。路面の岩は既に除去されている

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9月19日の地震で崩落した直後の状況(Twitterより)。気象庁の地震情報

崩落箇所を通り過ぎると、すぐに中崎橋。「橋が傾いているため、通行された際の事故について一切の責任を負いかねます」の工事予告看板がもう何年も置かれたままのところだ。

橋は傾いているというよりは、雪崩の力で欄干の手すりがひん曲がっているのが、シロウトでも見分けられる。

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蒲田左俣林道の中崎橋(標高1320m)

中崎橋を渡り、左俣谷の右岸側に出るとすぐに、北陸電力中崎発電所の取水施設がある。

川の対岸から轟々と音を立てて水を吹き出しているのは、右俣谷の穂高平小屋付近からの水をこちら側に引き込んでいる水路トンネルだ。そして、左俣・右俣を流れる水のほぼすべてを発電所の取水口が吸い込んでいき、残った僅かな水が左俣谷を流れ下っていく。

取水許可看板には 「取水量 5m^3/秒」 と書かれているが、それにしてもすごい轟音を発しているものだ。(取水された水は水路トンネルを通り、新穂高にある発電所に流れ込んでいる)

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北陸電力中崎発電所の取水施設(標高1340m)

更に先へ進むと、左俣谷に流れ込む沢の一つ、上岩小屋沢の崩壊地の末端が左俣林道まで岩石を押し出している場所を通過する。これ以上崩壊した岩が川に流れ込まないように整備された、大転石練積誘導堤の末端の巨石が林道横に迫っている。

5年ほど前の2016年ににここを通ったときには、まだ治山工事が完成して間が経っていなかったので、雑草・雑木も少なく岩ゴロゴロの扇状地が露出していて、「あぁ、工事をしたんだな」と気づかせる場所だった。しかし今ではうっそうと木が茂って、工事のあとを伺わせない。

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蒲田左俣林道(1997年に土石流が発生した上岩小屋沢の治山工事が行われた場所)

新穂高から47分、約3.7km地点の笠新道分岐点に到着。湧き水を引いたホースから勢い良く水が吹き出している。

双六小屋までの間で無料給水ポイントは、笠新道分岐点とわさび平小屋にしかないため、ここで500ml×2本のペットボトルが満タンになるまで水を補給しておく。

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笠新道の分岐点には、湧き水の給水ポイントがある(標高1370m)

後ろから追いついてきた男性が、「今日は双六で泊まり、水晶岳まで行く」と言っていた。水晶、行ってみたいなぁ...

新穂高より56分(約4.5km)、わさび平小屋に到着。

小屋は以前泊まった時と比べて、建物が一つ増えている。そろそろ7時だというのに、何人かの小屋泊まりの登山者たちがのんびりとベンチで出発準備をしている。

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わさび平小屋(標高1400m)

わさび平小屋(標高1,400m)〜 小池新道入口(1,470m):所要15分

小屋から双六方向へ延びるの林道の真ん中に、またしても「地震 落石注意」の立看板がある。岩がゴロゴロの秩父沢などで、落石が猛スピードで落ちてきたら注意もクソも無さそうだが...

ここから先しばらくは、ブナ林のなかを林道が通っている。谷底の林道にはまだ陽の光が差し込んできていないので薄暗いが、昼間は綺麗な森なのだろう。帰りに通るのを楽しみにしておこう。

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わさび平ブナの森(左俣林道) :飛騨森林管理署の看板には、樹齢200年と書かれている

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蒲田左俣林道の終点近く、大ノマ岳・弓折岳の稜線を朝日が照らしている

新穂高より1時間12分(約5.8km)、蒲田左俣林道から小池新道が分岐する地点に到着。小池新道は橋の手前で左折し、そのまま川の右岸側を進む。橋を渡った林道は、その先中崎尾根を登り奥丸山を経て槍ヶ岳に向かうマイナーなルートだ。

これから進む小池新道の方向には、大ノマ岳・弓折岳の稜線の上のほうを朝日が照らしている。日なたの部分が最も下に飛び出している所がシシウドヶ原のはずで、そこに向かってこれから登っていくことになる。

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蒲田左俣林道から小池新道が分岐する場所(標高1470m)

小池新道入口(標高1,470m)〜 秩父沢(1,720m):所要33分

分岐点には、小池新道のコースタイムが書かれた標識があり、それによれば鏡平まで3時間30分、そこから双六小屋まで2時間20分のようだ。

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小池新道の入口に立つコースタイム標識

ここから先は、基本的に沢を横切るのではなく、沢のゴロゴロ岩場をトラバースしつつ登っていくような形になる。そうじゃないと、林道のようにいつまでも水平移動になってしまう。

ルート上の岩は浮き石が無いように小石などでほぼ完璧に補強され、ペンキで「○☓」マーキングされている。

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沢が押し出してきた岩を登る場所(○×マーキングは、末端を横切るのではなく登っていくルートを示している)

ゴロゴロ岩の上を軽快に、飛び石の上を渡るように歩く。よくここまで浮き石無く登山道を整備したものだ。

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小池新道の入口付近は、ゴロゴロ岩の上をひたすら歩く

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アキノキリンソウ(標高1500m付近)

この先の「イタドリヶ原」では種子はすでに散ってしまったのか見かけることはなかったが、標高の低いここには、まだ種子をたわわに実らせたイタドリを見ることができる。

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イタドリの種子(標高1550m付近)

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石畳涸れ沢に架かる橋を渡る(標高1560m)

標高1640mほどの地点まで登ってくると、朝日が地面を照らすようになる。周囲の木々の緑が一層鮮やかになる。

奥抜戸沢(石畳涸れ沢)の左岸に堆積した、岩ゴロゴロの自然堤防斜面に沿って登っていくと、真っ赤な実を付けているナナカマドがチラホラと見られるようになる。

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真っ赤な実を付けたナナカマド(標高1650m)

奥抜戸沢を横切る付近で高木がなくなり、一気に視界が開ける。ふり返ると焼岳や、新穂高ロープウェイが通っている千石尾根が見えている。

岩に座って休憩している登山者が「ここは4Gの電波が強いですよ」と言っている。ロープウェイの西穂高口駅付近にアンテナがあるのだろう。山肌に反射ではなく、直視できるので電波強度が強いのだ。

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小池新道が奥抜戸沢を横切る付近で視界が開ける(標高1680m)

奥抜戸沢が大規模崩落すれば、沢の自然堤防に沿ってカーブしきれなかった岩が乗越えて到達したのが、この辺りのゴロゴロ岩だ。最近は周辺で地震が多く、ここは休憩せず通過するのが良いと思う。

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抜戸岳と奥抜戸沢

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小池新道が奥抜戸沢を横切る付近(標高1680m)。道はいったん秩父沢の谷に下り、再び登って写真の右上方のシシウドヶ原に続いている

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標高1700m付近の小池新道より、秩父沢を見下ろす

この辺りまで来ると、下山してくる登山者とすれ違うようになる。大雨の昨日、鏡平や双六まで登った人たちなのだろうか。

新穂高より1時間45分(約7.1km)、標高1720mの秩父沢を渡る橋のところに到着。

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小池新道が秩父沢を渡渉する場所

振り返って左俣谷の底の方を見ると、その背後に西穂高岳から西穂独標へのギザギザ稜線がくっきりと見える。

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秩父沢に架かる橋と、西穂高岳の稜線

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秩父沢の上部を見上げる(抜戸岳と大ノマ岳の間の、秩父平付近の稜線が見えている)

秩父沢を渡ったところに、ヨツバヒヨドリとノコンギクが群落をなしている。どちらもキク科だが、花の見かけは全く似ていない。

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ヨツバヒヨドリ(秩父沢渡渉付近の標高1730m)

秩父沢(標高1,720m)〜 シシウドヶ原(2,090m):所要47分

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標高1800m付近より紅葉した木々がチラホラと見かけられるようになる

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ゴロゴロ岩の沢を横切る小池新道

以前は渡渉する沢ごとに「場所名の標識」は無かったと思うのだが、今回は「石畳涸れ沢」や「下涸れ沢」の真新しい標識が立てられていた。

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下涸れ沢を渡る(標高1830m)

まもなく、イタドリヶ原に到着。新穂高より2時間20分(約8.0km)の地点だ。標高1500mほどの所で見かけたイタドリは、白い種子をたわわに付けていたが、ここでは種子は既に散っていて、葉っぱも黄色く色づき草紅葉の状態だ。

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イタドリヶ原(標高1910m)

この辺りは森林限界以下だが、冬に雪崩が頻発するため木が育たず、草原になっているのだろう。

振り返って谷底の方を眺めると、焼岳と乗鞍岳がはっきりと見えている。乗鞍岳には薄っすらと雲がたなびき始めているため、これから稜線付近にガスが湧いてくる前兆なのだろうか。

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イタドリヶ原から焼岳・乗鞍岳を遠望

地図上では、鏡平までの間で渡る最後の沢、上涸れ沢に架かる橋を渡る。

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上涸れ沢を渡る(標高1960m)

新穂高より2時間40分(約8.6km)、シシウドヶ原に到着。谷底を登る道はここが最高地点で、ここからは鏡平に向けて(写真右方向へ)斜面をトラバースして、一つ向こうの谷筋に取り付く。

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シシウドヶ原(標高2090m)から見上げた上涸れ沢上部、大ノマ乗越

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シシウドヶ原(標高2090m)から谷底方向を見る。背景に西穂高岳から独標へのギザギザ稜線と、焼岳、乗鞍岳

谷底には小池新道の入口だった蒲田川に架かる林道の橋もくっきりと見えていて、水平距離約2.8km・標高差約500mとは思えないくらい遠く感じる。

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シシウドヶ原から見た焼岳と乗鞍岳

小池新道入口から1時間半も登り続けた「成果」を少しだけ眺めて、もってきた羊羹の小さいのを1本食べて栄養補給。