26 May 2025

日本国債の利金率が急騰している

日本国債の新規発行利金率や既発債の利回りが急騰している。

30、40年債利回り史上最高 超長期国債、売り加速
償還までの期間が10年を超える超長期国債の金利が急騰している。

20日の東京債券市場で、30年物国債の流通利回りが一時3.140%、40年物国債が3.600%に上昇(債券価格は下落)し、いずれも史上最高を記録した。参院選を控えて消費税の減税論が広がり、財政悪化が意識される中、20日に実施された20年物国債入札が不調だったことから売りが加速した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e994b93632ef1c48b8268bbd879f405401cb9db7
米国債にライバル登場、利回り上昇した日本国債に存在感-ドイツ銀
投資家の需要を巡る米国債のライバルとして日本国債の存在感が増している。日本国債の利回りが上昇し、国内投資家にとっての魅力が高まっているという。

日本の財務省が20日に実施した20年利付国債入札は不調となり、超長期国債の利回りが軒並み急上昇した。日本銀行が巨額の国債買い入れを縮小する中、投資家不在への懸念が強まった格好だ。30年国債利回りは1999年の入札開始以来、過去最高となる3.14%を付けた。

利回りの上昇はバンガードやRBCブルーベイ・アセット・マネジメントといった国外投資家を引き寄せており、国内投資家も後に続く可能性がある。

「日本国債の価格低下は米国債市場に影響し、より深刻な問題になる」とサラベロス氏は指摘。「日本の資産が国内投資家にとって魅力的な選択肢となれば、米国からの資金流出がさらに進む可能性がある」と続けた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2f87b28cf68db8291652f1843d39707381137258

ここで述べられている5月20日の20年国債については、財務省の情報公開で

20年利付国債(第192回)の入札結果
1.名称及び記号                利付国庫債券(20年)(第192回)
3.表面利率                   年2.4パーセント
4.発行日                     令和7年5月21日
5.償還期限                   令和27年3月20日
6.価格競争入札について
        (2)募入決定額         7,509億円
        (3)募入最低価格       98円15銭
       (募入最高利回り)    (2.540%)
https://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/nyusatsu/resul20250520.htm

国債の利金率の変化

直近の新発利金率・利回り率は10年債が1.5%、20年債が2.5%、40年債が3.5%となっている。日銀が公表している将来のインフレレートの目標が2%なので、20年債・40年債がインフレに勝っている利金率となっている。

そして、直近で急騰しているかといえば確かにそうだが、コロナ対策で財政規律が緩みまくって以降、利金率の低下が底を打って上昇に転じていたというトレンドがある。

20250522-kokusai-chart-10year.jpg

20250522-kokusai-chart-20year.jpg

20250522-kokusai-chart-40year.jpg

国債を購入してみる

一般人は日銀の国債入札に参加できないため、証券会社が扱う既発債券を市場価格で購入することになる。

SBI証券で扱われている中長期の日本国債は次の通り。

20250522-kokusai-list.jpg

直近の「20年利付国債(第192回)」も売りに出されていて、購入画面は次のようなものになる。

20250522-kokusai-jgb20-no192.jpg

額面1,000万円を購入すれば、1年毎に利金24万円が支払われる。20%の源泉徴収課税を差し引くと手取りは19.2万円だ。

65歳を過ぎて認知能力・判断能力が減退したときに、まともな株式取引ができるかどうかはわからない。最低限の生活費を賄えるだけの長期の日本国債(為替差損のリスクがない)を一定額保有しおくのも、良い選択肢かもしれない。

債券の理論価格

債券の現在価値を求める公式

債券市場で債券の利回りが変動すると、既発債券の債券価格(現在価値)も変動する。この債券価格を求める式は利回りによる複利減価を考慮した「各年の利金合計」と「債券本体価格」の合計となる。

20250522-saikenkakaku-calc.png

P : 債券価格(債券の現在価値)
T : 償還(満期)までの年数
Ct : 各年の利金額(クーポン額)
r : 最終利回り
F : 償還額

数式出力に利用したLaTeX構文
P = \sum_{t=1}^{T} \frac{C_t}{(1+r)^t} + \frac{F}{(1+r)^T}
参考文献
みずほ証券「債券価値評価
SBI証券「債券用語集

20年国債の各年の債券価格を求めるには、何回もの反復計算が必要なため、表計算ソフトウエアを使うのが手っ取り早い。

実際の事例を計算する

実際に20年利付国債の1年経過後(償還まで残り19年)の利回りが変わらない場合と、利回りが2%上昇した場合で計算してみる。

■ 利回りが変わらない場合

T = 19年
Ct = 0.5 万円(利金は1年に0.5万円)
r = 0.005 (発行時および現在ともに 0.5%)
F = 100 万円(額面)

20250522-saikenkakaku-calc19.png

   = 0.4975+0.4950+0.4926+0.4901+0.4877+0.4853+
      0.4828+0.4804+0.4781+0.4757+0.4733+0.4710+
      0.4686+0.4663+0.4640+0.4617+0.4594+0.4571+
      0.4548+90.9588
   = 100 万円

発行時の利金率と、現在の利回りが変わらなければ、債券価格(現在価値)は額面と同じ 100万円 である。

数式出力に利用したLaTeX構文
P = \frac{C}{(1+r)^1} + \frac{C}{(1+r)^2} + \frac{C}{(1+r)^3} + \cdots + \frac{C}{(1+r)^{19}} + \frac{F}{(1+r)^{19}}
P = \frac{0.5}{(1.005)^1} + \frac{0.5}{(1.005)^2} + \frac{0.5}{(1.005)^3} + \cdots + \frac{0.5}{(1.005)^{19}} + \frac{100}{(1.005)^{19}}

■ 利回りが2%上昇した場合

T = 19年
Ct = 0.5 万円(利金は1年に0.5万円)
r = 0.025 (発行時は 0.5%、現在の市場金利は 2.5%)
F = 100 万円(額面)

20250522-saikenkakaku-calc19mod.png

   = 0.4878 + 0.4759 + 0.4643 + 0.4530 + 0.4419 + 0.4311 +
      0.4206 + 0.4104 + 0.4004 + 0.3906 + 0.3811 + 0.3718 +
      0.3627 + 0.3539 + 0.3452 + 0.3368 + 0.3286 + 0.3206 +
      0.3128 + 62.5528
   = 70.0422 万円

利回りが上昇すれば(市場金利が上昇すれば)、債券価格は減少するというのが、この理論計算からわかる。

表計算ソフトで簡単に計算する

反復計算が得意な表計算ソフトで計算してみる

LibreCalcとExcel用ワークシートをダウンロードする

20250522-saikenkakaku-calc19-sheet.jpg
利回りが変わらない場合(最終利金率(rt) = 現在利回り(r))

20250522-saikenkakaku-calc19mod-sheet.jpg
利回りが2%上昇した場合 (利回り(r) = 最終利金率(rt)+2%)

参考文献

債券価格と利回り Web計算フォーム https://keisan.casio.jp/exec/system/1431308296
数式の解法・近似解説 https://defire.jp/theoretical-price-of-bonds/
LaTeX Image (LaTeX構文をPNG画像に変換するWebサービス) https://latex2image.joeraut.com/

今後どうなるか

過去3年程度の20年国債表面利率、入札日の市場取引利回り、政策金利をグラフにまとめると次のようになる。

20250522-20y-suii.png
LibreOffice Calcワークシートをダウンロードする

国債利回りが政策金利に追従するとして、今後どこまで上がるかを想定するために、まずは過去の推移を見てみる。

バブル景気が終わった1990年代後半以降、30年間にわたって0.5%を超えたことがないと、各所で解説されているのは次のグラフを見てもわかるとおり。

20250522-kinri-suii.jpg

日銀がいうところの「基調的消費者物価指数の変化」をみて政策金利を決めているのなら、消費税増税やリーマンショックのような一時的な刺激を除いているということになる。

CPI総合指数のグラフをかくと次のようになり、たしかに消費税やリーマンショックによる一時的変動では、政策金利を動かしていないことがわかる。

20250522-cpi-suii.png
LibreOffice Calcワークシートをダウンロードする

しかし、この2年間ほどの「欧米を超える物価の暴騰」はコロナショックだけでなく、政府と経済界がグルになった「賃金と物価の好循環」インフレなので、日銀の政策金利は徐々に引き上げられている。

最終的にどれくらいまで上がるのかは、識者によれば「今年末までに25bpが2回で1.0%になる」「その後は「中立金利の1.0%〜2.5%のどこか」に落ち着くそうだ。


20年国債の市場取引利回りは、政策金利1.0%までは織り込んでいそうなグラフの形をしているが、その後にさらに1.0%あがって政策金利2.0%になるとすれば、

現在より国債の利回りは1.0%ほど上がる

ことになる。

20年国債の市場利回りが(2.5%から3.5%に)1.0%上がったときの債券価格の推測は、初年度で100万円が85万円になるということになる。(単利計算なら、素直に1%×20年=20%で、100万円は80万円の価値に落ちる。実際の取引価値は80万円から85万円の間のどこかやろね...)

20250522-20y-kakaku-yosou.jpg

そもそも政策金利の上昇幅を上回って長期国債の利率が上昇する理由

NHKのWebサイトにわかりやすい解説が出ていたので転載する。

「超長期債」の利回り上昇 入札も低調 財務省 対応を検討へ
債券市場では満期までの期間が10年を超える「超長期債」の利回りが上昇し、財務省の入札でも低調な状況が続いています。財務省は、入札に参加する金融機関を集めた会合を今月に開く予定で、今後発行する国債の年限を見直すべきか検討することにしています。

満期までの期間が10年を超える超長期債をめぐっては、財務省が5月20日に行った20年ものの国債の入札で、応札の倍率が2.50倍と2012年以来の低い水準となりました。

また、5月28日の40年ものの入札でも倍率が去年7月以来の低い水準となり、低調な状況が続いています。

〜 省略 〜

超長期債の利回り上昇 背景には

債券市場でも、このところ満期までの期間が30年や40年の超長期債の利回りが上昇傾向となっています。

債券市場では、発行された国債のやり取りが行われていて、国債が売られると価格が下がり、金利が上昇するという関係になっています。

市場ではことし4月ごろから、満期までの期間が30年や40年の超長期債が売られやすくなり
▽30年ものの国債の利回りは5月21日に一時3.185%
▽40年ものの国債の利回りは5月22日に一時3.675%
まで上昇し、それぞれ過去最高の水準を更新しています。

市場ではその背景に
▽超長期債の主な買い手である生命保険会社が国債の新たな購入を控えていることで需要が低下しているほか
▽消費税の減税をめぐる与野党の議論が活発になり、投資家が財政への関心を高めていることもある、と指摘されています。

一般的には、国債のなかでは、満期までの期間が長い超長期債が特に財政状況に関する投資家の懸念を反映しやすいとされています。

〜 省略 〜

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250603/k10014823771000.html

日本のポピュリズム政治では、供給制約に伴う物価上昇への対策として(1)給付金や補助金等のバラマキ、(2)減税による手取り増加、(3)政府主導の賃上げ気分情勢といった対策ばかりが議論されている。

これらの対策のすべてが供給制約インフレに対して、沈静化ではなく加速化を意味しているのは、経済学の成績が悪かった私でもわかること。

人口減少トレンド確定という変えれない現実の前に、それを上回る生産性向上の手立てが具体的に言えないのなら、供給制約のレベルは今後上がる一方である。そうであるなら、インフレ対策は需要の強制減少しかありえない。ポピュリズム政治が提示する逆の対策しかありえないのだ。(1)財政の引き締めと政策金利引上げでマネーサプライの減少、(2)増税で消費と投資の元手を断つ、(3)賃上げのための値上げという理由を封じるというのが対策メニューではなかろうか。