04 May 2019

二上山 (その2) : 二上山雄岳 〜 雌岳 〜 竹内峠 〜 屯鶴峯

10連休の後半、やっと「五月晴れ」となったので大阪・奈良の県境にある二上山を訪れた記録の後半

二上山 (その1) : 當麻寺 〜 鳥谷口古墳 〜 二上山雄岳』からの続き。

二上山 雄岳山頂 〜 馬の背 〜 雌岳山頂

雄岳(標高517m)から馬の背(標高440m)までいったん戻り、雌岳(標高473.9m)に登り返す。二上山は双耳峰なので、雄岳と雌岳の2つの山頂が南北に400mの間隔で並んでいる。

雌岳に登った後は、そのまま南へ下り竹内峠(288m)に向かう予定だ。

20190504-medake-tozandou.jpg
馬の背から雌岳に直登する登山道

馬の背から5分ほどで雌岳山頂に到着

山頂には2つの広場があって、馬の背側に山頂標識、竹内峠側に巨大な日時計が設置されている。

20190504-medake-santyou.jpg
雌岳山頂の標識

20190504-medake-hidokei.jpg
雌岳山頂の日時計

20190504-medake-sankakuten.jpg
雌岳山頂の三等三角点「女岳 標高473.88m」

国土地理院の基準点成果での名称は「女岳」だ。

20190504-medake-manyou.jpg
雌岳の万葉歌碑(大坂をわが越え来れば)

ここには大津皇子関連ではなく、作者不詳の旅人の詩の歌碑がある。

“大坂を 我が越え来れば 二上ふたかみ
    黄葉もみちは流る 時雨しぐれ降りつつ ”

「大坂」は、大和と河内を結ぶ街道にある坂で、二上山の北側にある穴虫峠や関屋峠、あるいは南側の竹内峠とみる説があるそうだ。(奈良女子大学の万葉歌碑DBより)

雌岳山頂からは奈良盆地方向の眺望が少しだけある。

20190504-medake-tyoubou.jpg
二上山雌岳からの奈良盆地眺望

大和三山と呼ばれる耳成山、橿原神宮のある畝傍山、天香久山が全て見えている。どれが大和三山なのかは、下の解説図で…

20190504-medake-tyoubou02.jpg
主な山の名前を入れてみた

畝傍山の少し右に写っている、幾つかの小さな山を含んだ森は明日香村辺り。

雌岳山頂 〜 竹内峠

さて、次は二上山の南にある竹内峠に降りる。竹内峠は、“ 大和国と河内国を結んだ古代の幹線道路で、日本最古の官道 ” と言われる竹内街道(たけのうちかいどう)の峠。国土地理院の基準点があり、標高288m。

竹内峠へは、二上山雌岳山頂からいわや峠を通過して、186m下ることになる。

20190504-medake-tozandou02.jpg
雌岳から岩屋峠に下るつづら折りの登山道

つづら折りの登山道からは、南に続く金剛山地が眺められる。ちょうど、葛城山(959.2m)と金剛山(1,125m)が同じ方向に見えている。

20190504-medake-tyoubou-kongou.jpg
雌岳直下の登山道から見た葛城山と金剛山

金剛山地の縦走路 ダイヤモンドトレールを通って、金剛山まで半日で歩けるそうだが…

スマホにはダイヤモンドトレールのKMLデータも入っているので、今からでも予定変更して…。するわけないか。

20190504-flower02.jpg
ツクバネウツギ

日当たりの良いつづら折りの登山道を一気に下ると、標高355mの岩屋峠。ベンチがあり、登山者が休憩している。

20190504-iwayatouge.jpg
雌岳側の登山道から見た岩屋峠

岩屋峠で、竹内峠方向の分岐道に進む。ここから先はヒノキなど背の高い針葉樹が茂った道が続く。

20190504-iwayatouge-tozandou.jpg
岩屋峠から竹内峠へ続く登山道

竹内峠

雌岳山頂から20分ほど歩いただろうか、遠くから車の走る音が聞こえてくる。まもなく、竹内峠

20190504-takenoutitouge-tozandou.jpg
竹内峠で国道166号線に合流する登山道

竹内街道は、現在は交通量の多い国道166号線となっている。車が途切れるのを待ち、車道の向こう側に渡ると東屋のある小さな広場となっている。

20190504-takenoutitouge-azumaya.jpg
竹内峠の東屋 (鶯の関跡)

竹内峠は、かつては鶯の関とも呼ばれていた。

20190504-takenoutitouge-tyusyoku.jpg
本日の昼食はパン2個 (竹内峠の東屋で食べた)

東屋のある場所から100mほど西に歩くと、府県境がある。大阪府太子町と奈良県葛城市の境界だ。

20190504-takenoutitouge-kenkyou.jpg
竹内峠の県境(左側が旧街道、右側が国道166号線)

府県境には石碑が3つ建っている。中央のものは奈良県が建てたもののようで “従是東 奈良縣管轄” と正面に書かれ、側面には “従是東 大和國北葛城郡磐城村大字竹之内” とある。

20190504-takenoutitouge-sekihi.jpg
竹内峠の県境にある石碑

左側の石碑は1984年(昭和59年)に国道の改修工事が完成した時に立てられたもののようだ。上半分には

鴬の関址

“ 我おもふ こころもつきず 行く春を 越さでもとめよ 鴬の関 ”
      康資王やすすけおう母 作

下半分は竹内峠の歴史が書かれている

“ここ竹内峠ほど歴史の余韻が漂う峠は少ない。
推古天皇21年に、難波と京の間におかれた官道は、この峠を越える竹内街道であるといわれている。 大陸からの文物がこの道を通って大和の飛鳥にもたらされた。 峠の東北にある万歳山城などの中世の城塞址はこの辺りを駆けめぐった大和武士たちの夢を偲ばせる。
中・近世には伊勢、長谷参詣が隆盛し、茶屋、旅籠が峠をゆく人々の旅情を慰めた。 鴬の関ともよばれたこの峠の風景に多くの文人たちが筆をとり、貞享5年には松尾芭蕉が峠を河内に向かっている。 幕末、嘉永6年吉田松陰は峠を経て大和の儒者を訪ね、文久3年天誅組の中山忠光等七名が志果たせぬままここに逃走している。
明治10年から15年にかけて峠道は拡幅改修され昭和50年県道から国道166号線に昇格、昭和59年国道の改修工事が完成するに至る”

竹内峠 〜 万葉の森

次の目的地は屯鶴峯(どんづるぼう)。国道・県道などの舗装された一般道を歩けば高低差は殆ど無く、距離は5.7km。 ただし、快晴の強い日差しに焼かれる灼熱ロードになる可能性がある。

もうひとつの選択肢は、二上山の中腹まで登り返すダイヤモンドトレールを通って行く方法。 高低差のある山道だが、木々に日差しが遮られている。距離はおよそ4.4km。

晩秋から早春の日差しが弱い季節なら、ロードを選ぶところだ。しかし、初夏のような天候なので、今回は山道を選択する。

竹内峠から岩屋峠まで標高差70mほど登り返し、そこから20mほど下った所にある舗装された管理道に降りる。

途中、岩屋と呼ばれる石窟寺院跡がある

20190504-iwaya.jpg
岩屋

“二上山に位置する岩屋は、近傍にある鹿谷寺跡とともに奈良時代頃の石窟寺院の跡と考えられている。 特に岩屋の石窟では奥壁に柱の痕跡かと推測される穴が確認され,かつては木造の建物が存在した可能性も考えられる。” (東京文化財研究所の報告書より)

日本にも石窟寺院ってあったのですね…

岩屋のすぐ目の前にある巨大なスギの倒木(岩屋杉)をくぐり抜けて少し歩くと、国道166号線沿いの万葉の森駐車場から馬の背まで続く管理道に合流する。

20190504-nijyousan-kanridou.jpg
万葉の森駐車場から二上山馬の背に続く管理道

ここからは快調に舗装道を馬の背方向へ登り返す。

屯鶴峯へ向かうダイヤモンドトレール分岐点の少し手前に、展望台がある。

20190504-manyounomori-tenboudai.jpg
万葉の森の展望台

展望台からは、金剛山地から大阪市南部までの眺望がある。

20190504-manyounomori-tenboudai-view01.jpg
万葉の森展望台から大阪市南部方向の眺望

主な超高層ビルと、六甲山などの位置は下の写真の通り

20190504-manyounomori-tenboudai-view02.jpg
万葉の森展望台から大阪市南部方向の眺望 (建物名入り)

展望台を降り、すぐ近くの分岐点から屯鶴峯へ向かうダイヤモンドトレールに進む

20190504-manyounomori-bunki.jpg
万葉の森から屯鶴峯への分岐点

万葉の森 〜 屯鶴峯

ダイヤモンドトレールは穴虫峠(あなむしとうげ)に向かう尾根筋の上を、なだらかに下っていく。 延長2.3km、標高400mから110mまで降りるこちらの登山道、かなりマイナーな道のようで、あまり登山者を見かけない。2人を追い越し、4人とすれ違っだけだ。

20190504-anamusitouge-tozandou01.jpg
万葉の森から穴虫峠に向かう尾根筋の登山道(標高360m付近)

20190504-flower03.jpg
コバノガマズミ

20190504-anamusitouge-soudensen01.jpg
万葉の森から穴虫峠へ。送電線を横切る (標高285m付近)

送電線を横切る場所からは、藤井寺や羽曳野あたりの街の景色がよく見える。手前の丘陵地の切り開いて、まばらな木が植わっているのは、太子町の「上の太子観光みかん園」。周辺に点在しているビニールハウスは、名産の温室ブドウを栽培しているところだ。

20190504-anamusitouge-tozandou03.jpg
両側が切れ落ちている尾根上の登山道(標高250m付近)

1つ目の送電線を越えたのち、登山道は尾根上をほぼ水平に北西へ続いている。右手の谷間の向こうに、山肌を削った巨大な採石場(疋田砕石 二上工場)が見える。二上山は凝灰岩の地層が露出しているので、古代から良い採石場だったとされている。

10連休の祭日なのに、採石場で破砕機か何かが稼働している唸り音がする。お仕事ご苦労様です…。

20190504-anamusitouge-tozandou02.jpg
標高230m付近の尾根を下る登山道

20190504-flower04.jpg
ニガナ

20190504-anamusitouge-bunki.jpg
標高210m付近で、ダイヤモンドトレールから太子町総合スポーツ公園方面が分岐

国土地理院地図には分岐道は描かれていないが、ここから分岐道を進むと竹内街道歴史資料館へのショートカット道となる。

20190504-flower05.jpg
2つ目の送電線を横切る付近に咲くツツジ(標高230m付近)

2つ目の送電線を横切る辺りから、尾根上の「小さなこぶ」を登ったり降りたりという道となり、まもなく県道703号線に合流する。

20190504-anamusitouge-tozanguchi.jpg
県道703号線の二上山登山口(標高約110m)

ここから大阪府・奈良県の県境に向かって県道703号線を東へ。 交通量が多い道路なのに歩道がないため、いつ車が突っ込んでくるかわからない怖い道だ。

この県道703号線は、竹内街道長尾街道を結ぶ「穴虫街道」といわれる迂回路だ。

標高288mの竹内峠を通るより、標高140mの穴虫峠を通ったほうが楽だから、少々距離が長くなってもこちらの穴虫峠を通る道を選択する旅人も多かったのだろう。

20190504-kaidou.jpg

大阪府と奈良県の県境となっている穴虫峠は、近鉄南大阪線を乗り越える跨線橋でもある。奈良県側に入ると、路側帯に申し訳程度の歩道が出現する。

20190504-anamusitouge-kenkyou.jpg
穴虫峠(左側は屯鶴峯)

屯鶴峯

まもなく、屯鶴峯(どんづるぼう)の入口。県道703号線(穴虫街道)に面した入口脇には、金剛山地の縦走路 ダイヤモンドトレールの起点を示す石版が埋め込まれている。

20190504-dondurubou-entrance.jpg
県道703号線に面した屯鶴峯の入場口

20190504-dondurubou-entrance02.jpg
屯鶴峯のダイヤモンドトレール起点石版

20190504-dondurubou.jpg
屯鶴峯

屯鶴峯は “二上山の火山活動により火山岩屑が沈積し、その後の隆起によって凝灰岩が露出し、1500万年間の風化・浸食を経て奇岩群となった標高約150mの岩山 ” だそうだ。

20190504-dondurubou02.jpg
屯鶴峯の凝灰岩露頭

この凝灰岩は、寺院の基壇や燈籠などの石材として使われるほか、現在では土木工事用の砕石として道路工事や建築工事で使われるそうだ。

屯鶴峯 〜 田尻峠 〜 関屋駅

屯鶴峯から近鉄関屋駅に向かうには、北側に隣接している採石場を横切って国道165号線側に出られれば、相当な近道だ。しかし、屯鶴峯から見下ろした限りでは、国道に面した側の仮設ゲートが閉じられている。もと来た道を戻り、穴虫街道と長尾街道を通る大回りのコースで行くこととする。

県道703号線(穴虫街道)の緩やかな坂を下って行くと、産業用機器などのゴミを山積みしている産廃の中間処理場があり、その目の前が国道165号線(長尾街道)と合流する穴虫交差点だ。

角には閉店したセブンイレブンの廃屋があり、その脇に万葉歌碑が建てられている。この歌碑は二上山雌岳山頂にあった “大坂を 我が越え来れば 二上に 黄葉流る 時雨降りつつ”と同じ詩を記念したもの

「大坂」とは、屯鶴峯の手前で通ってきた穴虫峠のことだとされる。(関屋峠や竹内峠とする説もある)

万葉歌碑から国道165号線の大阪方向を見ると、緩やかな登り道になっていて、切通の峠がある。この峠こそが、明治時代に開削されて長尾街道の新たなルートとなった田尻峠だ。

20190504-tajiritouge.jpg
長尾街道の田尻峠 (穴虫峠の万葉歌碑前から撮影)

国道165号線(長尾街道)は歩道がなく、交通量も多くて徒歩で歩くには危険な場所だ。

500mほど大阪方向へ歩き、丘陵地の林を切り開いて作られた新興住宅の晴実台へ入る。この分岐点に道標があり、「屯鶴峯 1.3km、関屋駅 1.5km」 と表示されている。

20190504-harumidai.jpg
香芝市晴実台と二上山

ここは半数くらいの区画が空き地の新興住宅街で、「新築分譲中」の看板ある。Google Earthでは2013年から空き地の区画はそれほど減っていない。駅から遠すぎて、買い手がなかなか見つからないのだろう。

駅までは丘陵地を登り降り、また登り降りということで、実際の距離よりもずいぶん遠く感じる。

近鉄関屋駅は、明治時代に田尻峠が開削されるまで、長尾街道がここを通っていたそうだ。いまは周囲の丘陵地が全て新興住宅地として開発され、谷間に寂しく駅があるという感じだ。 多くの住民がいるのに、コンビニもスーパーも駅前に無いという、不便極まりないところだ。

関屋駅 〜 自宅

20190504-sekiya-station.jpg
近鉄関屋駅から準急列車に乗車

■ 近鉄大阪線 準急 関屋駅 14:08 → 14:39 鶴橋駅 14:41 → 日本橋駅 14:44 (440円)

■ 大トロ 日本橋駅 14:49 → 14:52 堺筋本町駅 14:56 → 阿波座駅 14:59 (230円)