19 September 2024

「FIRE」する人が増えたら社会はどうなる?

昨年(2023年)の4月にFIREをしてクソ労働から開放された私にとって、ITMedia Newsで興味深い記事が出ていた

「FIRE」する人が増えたら社会はどうなる? 労働力はAIでまかなえるのか
FIREはあくまでも願望であり、実際に実現する人はごくごく少数だろうと考えられてきた。だが、その願望はある程度実現可能ではないかとするレポートが登場した。

単身世帯、つまり結婚しない人は人生所要金額が低いため、比較的FIREを実現しやすいのではないか、そうなると社会はどうなるのか、といった予測を行ったものだ。

単身世帯の大きな特徴は、とにかく生活にお金がかからないことだ。子供がいないので養育費がゼロだし、広い家も必要ない。遺産を残す動機もないので、自分1人で使いきる程度の資産があればそれでよい。AlbaLinkの調査では、FIREに必要な資金は1億円程度と見ている人が多いようだ。大卒男性の生涯賃金が2億7000万円程度といわれる中、50歳まで独身で働いて浪費もせずコツコツ1億円貯めてとっととリタイア、というライフプランは、まんざら無理でもないように思える。

https://news.yahoo.co.jp/articles/393e69415748dab0d6b086129ea4d777f5407f54?source=rss

この記事が参照するみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートは

単身世帯化の日本経済への影響
─ FIRE願望と結びつくと人手不足は深刻化 ─
概要
  • 非婚化を背景に単身世帯が増加している。遺産動機や子育て費用のない未婚単身者はそれほど多くのカネを稼ぐ必要がないため、労働市場からの離脱が比較的早い
  • 単身世帯化がFIRE願望と結びつく場合には、人口減少+高齢化による構造的な人手不足がさらに加速する要因となりうる
  • こうした人手不足の加速は日本経済に構造的なインフレ圧力をもたらす可能性がある。単身世帯化(≒非婚化)の原因について、より踏み込んだ分析・議論が必要かもしれない
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/report/research/insight/2024/insight-jp240829.html

この調査レポートの全文PDFを読むと、次のような理論の建付けになっている。

単身世帯化の日本経済への影響
─ FIRE願望と結びつくと人手不足は深刻化 ─
理論の建付けまとめ(抜粋版)
未婚単身者には通常は子がないため、いわゆる「遺産動機」は皆無。また、子育てに必要な費用(子一人当たり3,000万円前後とも言われる)が浮く。そのため、生涯に稼得しなければならない金額が減る。

多くのカネを稼ぐ必要がなければ、当然、それほど長期間にわたって働く必要もない

労働自体に「やりがい」を感じる人も少なからず存在するのだろうが、「労働とは専ら金銭を得るための手段であり、労働自体は嫌なことである」と考え、ざっくりと「労働にやりがいはない」と仮定する。
この場合、「人生所要金額」が貯まった時点で労働者はリタイアし、非労働力化する。

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世帯主の有業率を「未婚単身者」とそれ以外も含めた全体で比べると、50~70代で最も差が大きくなっており、未婚単身者は「50歳を過ぎたらさっさと仕事を辞める」

そもそも夫婦で長時間一緒にいること自体が何らかのストレスを発生させるが、単身世帯にはこうした問題も発生しないため、「気兼ねなく仕事を辞められる」。

FIRE志向の強い人ほど積極的にリスク性資産を保有して財産所得を増やす可能性が高いとすれば、「労働所得+財産所得」における「人生所要金額」への到達はさらに早くなり、労働の必要性はさらに低下(→マクロ的な労働供給はさらに減少)する。

したがって、単身世帯化が進むとその分だけマクロの労働力率は低下し、労働力人口に減少圧力がかかる。

人口減少の場合は、労働者(=供給能力)が減少する一方で消費者(=需要)も減少し、需給双方が減少することから必ずしもインフレ的とは言い切れない面があるが、単身世帯のFIRE増加等による労働力率低下の場合は、労働者は減少する一方で消費者は減少しない。このため、需給は引き締まる可能性が高く、インフレ効果を持つことが想定される。

50歳台前半でFIREした私の立場で、ほぼ納得できる理論の建付けになっている。しかし、ひとつだけおかしいと思う点がある。 このリポートを書いた研究員は、自身が「婚姻」「労働」を選択している人であり、「単身」「FIRE」の立場を実体験していないからこその重大な見落としがある。

それは、FIREしたら「消費欲求がほぼなくなった」ことである。一般的に高齢者になると消費支出が減るとされるが、これがFIREした中年層にも当てはまる可能性が高いのだ。

外食をすることが皆無になり、食材の買い出しを様々な場所で試行錯誤することで、格安スーパーや中央市場の仲卸で激安品を入手することを学び、食費が限りなく低くなるのだ。

衣料品も買わなくなり、ストックされた(すでに購入済みの)衣料を使いまわすだけになる。仕事などでのドレスコードも関係なくなるため、普段着はユニクロやイオンで購入した格安衣料品を季節ごとに各1着だけ保有し、着古したら買い替えればよいだけだ。

もはや、他人の目を気にすることも、承認欲求も存在しなくなるのだから、低価格ドライブかかりまくりである。

高齢者と同じく、ほぼ金のかからない「登山」が趣味ともなれば、娯楽費もたかが知れている。

私の個人的体験から言えば、趣味・娯楽・衣料の支出は年間 5万円以下である。(北アルプスに1~2回程度行くのも含めて)