1986年7月末に廃線となった、旧国鉄福知山線の武庫川渓谷沿いの廃線跡を歩いてきた。
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まずは、自宅近くのJR海老江駅から廃線敷ハイキングコースの北端にある武田尾駅に向かう
■ JR 海老江駅 11:41発 → 11:49着 尼崎駅 11:52発 → 武田尾駅 12:28着 (運賃 590円)
平日の通勤時間帯には篠山口行き快速列車が東西線に乗り入れているが、休日や平日昼間は “ 宝塚駅より向こう ” に行くには、必ず尼崎や宝塚などで乗り換える必要がある。 同じ路線なのに不便…
列車は、宝塚を出てしばらく行くと、今回歩く「旧福知山線」と別れ、1986年8月に開通した長いトンネルに入る。 トンネルから外に出る渓谷部分にそれぞれ駅が造られ、西宮名塩駅、武田尾駅と停車していく。
武田尾駅の渓谷部分は短いため、列車の後ろ2両分ほどを除いて、プラットホームの大部分はトンネル内だ。
駅付近には “秘湯” 武田尾温泉があるくらいだ。
「廃線敷ハイキングコース」の地図や見どころは、西宮観光協会のWebページからダウンロードできる
旧武田尾駅や集落跡を通り、廃線敷ハイキングコースの入口の僧川橋梁へ
ハイキングを終えて電車に乗る客が無人駅の入口付近に溜まっている。 渓谷沿いの駅舎を出ると、阪急バスのバス停があり、1時間に1本だけしか走らないバスを待つハイキング客がベンチに座っている。
古い航空写真に写っている施設が、今どのようになっているのか見ていこう
600mほど東にある廃線敷ハイキングコース入り口に向けて、渓谷左岸の車道を歩く。
車道をまたいで、水管橋が横断している。 千刈ダムから神戸市まで続く神戸水道の第一水道橋だ。
神戸水道は20世紀初頭に完成したそうだ。 今目の前に架かっている水管橋の配管は、送水管の長手方向に溶接ビードが見えるフランジ鋼管。 20世紀初頭の技術力では、アーク溶接ではなくリベット溶接しかできなかったはずだ。 つまり、当時設置された大口径送水管は鋳鉄管だったはずだ。 ということは、この水管橋の配管は20世紀後半に取り替えられたものなのだろう
参考資料 : 水道技術研究センター 「水道管の分類と特性」
更に少し歩くと、駐車場があり、武庫川渓谷の右岸にある武田尾温泉を結ぶ橋が架かっている
駅舎や線路の残骸は残っていないようだ
さらに東へ。住宅が2軒ほど、巨大な駐車場の横にぽつんと建っている。 谷間のこの広場は、かつて多くの建物が並んでいた集落だったようだが、今はほとんど更地状態だ。
集落跡の巨大駐車場を突っ切った奥に、支流の僧川の合流地点があり、そこに架かる僧川橋梁がハイキングコースの入口になっている。武田尾駅の出口からの距離は、およそ650mだ
橋梁は旧橋の桁が再利用されているが、河川改修行われてほぼ原型をとどめない程に改修されまくっている。
廃線敷のトンネル、鉄橋について
旧武田尾駅より生瀬駅方面に向かって、トンネルは6箇所ある。 名称と長さは「わが国における鉄道トンネルの沿革と現状 - 旧・東都鉄道, 旧・阪鶴鉄道をめぐって」より抜粋すると、次のようになる
No. | 名称 | 開業年 | 廃止年 | 長さ | 延伸・改築 |
8 | 長尾山第三隧道 | 1899 | 1986 | 59.1m | +32.1m → 91.2m |
7 | 長尾山第二隧道 | 1899 | 1986 | 148.9m | |
6 | 長尾山第一隧道 | 1899 | 1986 | 306.8m | |
5 | 溝滝尾隧道 | 1899 | 1986 | 138.6m | +11.4m → 150.0m |
4 | 北山第二隧道 | 1899 | 1986 | 396.7m | +16.0m → 412.7m |
20 | 北山隧道 | 1923 | 1986 | 318.4m |
廃線敷で1箇所、武庫川を横断する鉄橋は「第二武庫川橋梁」で、土木学会の「歴史的鋼橋一覧(兵庫県)」によれば “1954年架け替え、日立造船製の単線下路曲弦分格ワーレントラス橋、橋長72m(1径間×支間72m)”
それ以前に架かっていたのは、福知山線開通時の1899年に架けられた250ftのアメリカ製トラス橋。(「明治時代に製作された鉄道トラス橋の歴史と現状 - 米国系トラス桁その1」)
廃線敷 : 僧川橋梁から親水公園まで
廃線敷は、枕木が地面に設置されたままの凸凹状態なので、かなり歩きにくく、歩行速度が上がらない
僧川橋梁から約320mほど歩くと、長尾山第3隧道の坑口に到着
長尾山第3隧道は、全長が約91mで、野石乱積み側壁、レンガ長手積みアーチ構造。
トンネル内部は照明がないので、LEDヘッドランプで照らしながら前進。 足元は枕木が全て残り、さらにはバラスト石もかなり残っているので、歩きにくいことこの上ない。 これならいっそのこと、レールも残ってたほうがいいのでは…
次のトンネルまで、およそ150mほど。 気持ちの良い林の中の廃線敷を歩く。
僧川橋梁から約560m、2つ目のトンネル長尾山第2隧道の坑口に到着
今度のトンネルはほぼ直線なので、入口に立つと出口の光が見えている。 全長は約149mだ。
トンネルを抜けると、親水広場。 山側の階段を登ると「桜の園」と呼ばれる桜の木が植樹された谷間があり、その先には標高552mの大峰山に続く山道がある。 川沿いにはベンチが並んでいて、弁当などを食べている家族連れがたくさんくつろいでいる。 ここは、このコースで最も賑わう行楽地のようだ。
廃線敷 : 親水広場から武庫川第2橋梁まで
僧川橋梁から約950m、軌道敷と渓谷の間にあったちょっとした林がなくなり、渓谷ギリギリに軌道敷が作られている場所に出る。ココから次のトンネルまでの間が、展望広場と呼ばれているようだ
渓谷を見下ろすように、ベンチが点々と並んでいる。 上の写真で、渓谷の奥の方に見える水色の橋梁は、神戸水道の水管橋だ。
この展望広場横の武庫川渓谷は、大きな岩が転がり急流となっている場所がある。 ここは「マキノ瀬」と呼ばれる場所らしい
僧川橋梁から1.2kmやってきた。長尾山第1隧道の坑口に到着
トンネルの入口には、トンネル名や長さなどの表示はなく、“落石による事故の責任は持ちません”とか、“トンネル内照明なし”といった警告表示ばかり。
廃線敷を歩くのは自己責任だから、こんな無駄な看板を立てるより、鉄道遺産の説明プレートを取り付けるほうが良いと思う。
長尾山第1隧道は、全長が約306.8mで、野石乱積み側壁、レンガ長手積みアーチ構造。
トンネルを抜けると、第2武庫川橋梁がある。
廃線敷 : 第2武庫川橋梁から名塩川橋梁まで
第2武庫川橋梁は、1954年に架け替えられた橋長72mのトラス橋(単線下路曲弦分格ワーレントラス橋)だ。
ここは武田尾側入り口の僧川橋梁から約1.6km、生瀬側入り口の名塩川橋梁まで約3.1kmの地点だ
長さ150.0m溝滝尾隧道を抜けると、崖と渓谷に挟まれた狭い空間に軌道敷が作られている。大きな岩がゴロゴロと転がり、その間が急流となっている場所がある。溝滝(雄滝・雌滝)と呼ばれているそうだ
このあたりの地質は、流紋岩
渓谷の対岸には、百置岩と呼ばれる巨大な岩壁が露出している
僧川橋梁から2.12kmほどやってきました。 渓流を軌道敷の上を横切る水路橋があります
僧川橋梁から2.44kmやってきました。長さ412.7mの北山第2隧道の坑口に到着します
トンネルを出たすぐ左手の渓谷は、清水ヶ淵とか十国の瀬と呼ばれている場所です
ココには珍しく、国鉄時代の標識が残っています
僧川橋梁から3.68kmのところに来ると、ハイキングコース最後のトンネル北山隧道(北山第1隧道)の坑口です
このトンネルは、福知山線開業当時は存在せず、1923年になって新たに造られたもの
この写真で、坑口の右側、渓谷との間にトンネル開削前の路線跡あることがわかります。
ここからハイキングコースの生瀬側入り口までは直線の歩きやすい道。 武庫川渓谷は大きな岩がゴロゴロ転がっている区間で、高座岩というひときわ大きな岩もあります
中国自動車道の高架が見えてくれば、間もなく名塩川橋梁(ハイキングコースの出口)
西宮名塩
アップダウンの激しい丘陵地にある、旧家の建ち並んだ住宅地を抜けて、1986年に新設された西宮名塩駅へ
丘陵地に切り開かれた西宮名塩ニュータウン(東山台)の住宅群と名塩中学校
廃線敷ハイキングコースの出口から歩いて1.2kmで、西宮名塩駅に到達
■ JR西日本 西宮名塩駅 14:22発 → 14:44着 尼崎駅 14:47発 → 海老江駅 14:55着 (運賃 510円)