26 May 2012

大阪城公園内のピース大阪を見てきた

大阪城公園内にある戦争被害に関する資料館「ピース大阪」を見てきた。

入り口を入った2階には、大阪空襲に関する展示

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米軍 M-66 2000lbs通常爆弾

入り口を入ってすぐのところに、M-66通常爆弾の模型が2体置かれている。その横には、地上に突き刺さったクラスター小爆弾M-69


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米軍 M-69 ナパーム クラスター小弾

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「空襲の意味」の解説

”冷酷な近代戦に、前線と銃後の区別はない。長い歴史の積み重ねによって築き上げられた大阪の街並みは、このために一挙に灰塵に帰し、多数の犠牲者が燃え盛る炎のなかに、生命を散らしていった。”

空襲の意味の説明? ピントがずれていませんか。

空襲の意義とは生産施設の破壊、生産人員の殺害、厭戦感情の醸成と、私は思いますが…

Wikipediaの『無差別爆撃』では”絨毯爆撃とは、多数の無誘導爆弾を用いて地域一帯を爆撃することを指す。投下地域の人員・物的資源の完全破壊や心理的効果等を意図して行われる。』と説明されています。こちらのほうがはるかに的を得ています。


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「空襲の意味」の解説の続き

先ほどの意味の説明は支離滅裂でしたが、すぐ横には『伝単』のサンプルが展示されています。伝単とは米軍が爆撃前にばらまいたビラです。 このビラを撒くことで、「無差別爆撃」のそしりを受けずに済むアリバイ作りをして、なおかつ国民の厭戦気分や反乱を誘うという「爆撃の意味」がよくわかる文章です。


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米軍が撒いた『伝単』

”日本国民に告ぐ
あなたは自分や親兄弟友達の命を助けようとは思ひませんか。助けたければこのビラをよく読んでください。
数日の内に裏面の都市の内全部若くは若干の都市にある軍事施設を米空軍は爆撃します。
この都市には軍事施設や軍需品を製造する工場があります。軍部がこの勝目のない戦争を長引かせる為に使ふ兵器を米空軍は全部破壊しますけれども、爆弾には眼がありませんからどこに落ちるか分かりません。ご承知のように人道主義のアメリカは罪のない人達を傷つけたくはありません。ですから裏面に書いてある都市から避難してください。
アメリカの敵はあなた方ではありません。あなた方を戦争に引っ張り込んでゐる軍部こそが敵です。アメリカの考へてゐる平和といふのはただ軍部の壓迫からあなた方を解放する事です。さうすればもっとよい新日本が出来上がるんです。
戦争を止める様な新指導者を樹てて平和を回復したらどうですか。
この裏に書いてある都市でなくても爆撃されるかも知れませんが、少くともこの裏に書いてある都市の内必ず全部または若干は爆撃します。
豫め注意しておきますから裏に書いてある都市から避難してください。”

と書かれています。

”この裏に書いてある都市でなくても爆撃されるかも知れませんが” と、”少くともこの裏に書いてある都市の内必ず全部または若干は爆撃します。” と、意味不明の予告状ですが…


その横には…

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米軍の戦闘機、日本の防空戦闘機 性能表

いきなり兵器の詳細スペックを掲示して、何がしたいのでしょうか…。 日本軍の要撃機の最高上昇高度が米軍機よりも低いのが言いたいのでしょうか。 日本の要撃機が米軍機の迎撃に効果的でなかったのは、最高上昇高度が足りないという単純は理由だけではないはずです。 (そもそも、敵機の速度・高度・運動性能のすべてに対応可能でないと、単にテスト飛行レベルでゆるゆると最高高度に到達しても仕方ないわけです)

東京や大阪への絨毯爆撃に対してなすすべもなかったのは、制空権が完全に米軍に奪われていたのが大きいのではないでしょうか。


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2階展示室。砲兵工廠の説明はわずか

かつて大阪砲兵工廠(造兵廠)があった大阪城公園にある戦争博物館にしては、砲兵工廠の説明はパネル1枚ですか。敵の爆弾の模型を展示するのなら、砲兵工廠で製造された我が国の兵器(砲や戦車)の実物大模型も展示する方が良いのではないでしょうか。


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教育勅語

ここに、教育勅語を展示するのは、少し違和感がある。 見たことない人には新鮮な展示物かも知れませんけれど…


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一般住居の復元展示

戦時中の一般住居の居間の模型です。天井から吊るされている電球には、黒い布がかぶされています。その横にある火災報知機のセンサーは、現代風です…(笑。
机の上には慰問袋、壁には戦時国債のポスターが貼られています。

2階の展示はこういう感じでした。次は1階へ。

大阪の空襲や砲兵工廠の説明をする展示館のはずが、1階は日本の「戦争犯罪」を糾弾する展示館になっています。


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中国大陸での三光作戦

次のような説明がされている

”戦争が長期化し、中国民衆の抗日運動が激化すると、日本軍は抗日根拠地を徹底的に破壊する燼滅作戦をくり返した。こうした作戦を中国は、殺し尽くす(殺光)、焼きつくす(焼光)、奪い尽くす(槍光)「三光」と呼んだ。中国の人々は家族を失い、家を失い、ただただ逃げまどうしかなかった。そして日本軍の容赦ない行為は、戦線がゆきづまるほどエスカレートしていった。”

前半は淡々と述べているようですが、後半は、まるで中国のプロパガンダのようですね。「家族を失い、家を失い、ただただ逃げまどう」という比喩を持ちだして感情に訴えかけたかったのでしょうか。この文章の作者は究極の外交手段である戦争というモノの意味をもう少し学んだほうがいいかも知れません。

Wikipediaは『燼滅作戦』で次のように述べています。”日中戦争(支那事変)中に旧日本軍の陸軍、特に北支那方面軍などが1940年8月2日以降、中国華北を中心に、抗日ゲリラ対策として行われた根拠地とみなした地域への根絶作戦である。主に共産党の八路軍根拠地に対しておこなわれた。”
この記述のほうがわかりやすいですね。当時の八路軍(中国軍)は、劣勢になると軍服を脱ぎ捨てて私服を着て市民に紛れ込み、テロ行為で反撃しようとしていたそうですので、非対称戦争に持ち込まれた日本軍が取った作戦が無差別攻撃だったということでしょう。

そもそも国際法では、軍服を脱ぎ捨てて私服になり、一般市民に紛れて反撃するのは禁じられています。戦争とはプロの兵士同士が戦うというルールがあるのです。だから無差別攻撃や無差別爆撃が戦争犯罪として糾弾されるわけです。(米軍が「事前ビラ」を撒いてから絨毯爆撃をしたのも、無差別爆撃と言われないためです)


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南京大虐殺を示す中国の本

1987年発行のこの本には被害者2,000人と書いてあったりします…。いまはもっと多くなってますね。


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南京大虐殺を記述した日本の教科書


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朝鮮人の強制連行の展示


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アウシュビッツ11号棟の地下牢

大阪空襲の展示館が、アウシュビッツの話題まで飛躍してしまうと、もはやなんのことやら…


橋下市長が「展示内容を変える。両論の展示を行う。補助金をカットする」という意味がわかるような気がする。

私なら、「大阪空襲のテクニカルな情報を、個人的感情や批評を一切除いて展示する2階の展示室、砲兵工廠の生い立ちと開発技術、出荷兵器の事実を展示し、爆撃され閉鎖されたところまで淡々と説明する1階の展示室。」の2本立てにしたいところです。
海外の軍事博物館を多数見物した経験から言えば、日本の戦争博物館は「個人的な、あるいみ宗教的な感情論を展示する」ところにしか見えない。もっと事実の展示、特に実物の兵器や、軍装品などを展示してしかるべきかと思う。