04 February 2012

学研 グランド現代百科事典(1970年代発行)

「日本が地震活動期に入った。4年以内に大地震」と盛んに報道されている。 本棚から重い本が落下して負傷するのを防ぐため、書籍ダイエット(捨てること)敢行中。 今後も参照する書籍はページスキャナを使って自炊するのだが、30年以上前の百科事典は…

今回処分するのは学研 グランド現代百科事典 (1971年初版。1978年 第23刷)

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全20巻 + 地図2冊

1冊の重量は約3kg。全冊で約60kg。私の体重と同じくらいだ。

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百科事典と、iPad、電子辞書 EX-WORD XD-SF6300 を並べてみた

それぞれの情報量は如何に…
百科事典の1ページには18文字/列 × 42列 × 5段 = 3,780文字
1冊は約600頁なので、百科事典の情報量は

 3,780文字 × 600頁 × 20冊 = 45,360,000文字 (90,720,000Bytes)

・百科事典 86.5 MBytes, 60kg
・iPad 16 GBytes, 0.68kg
・電子辞書 ??? MBytes, 0.28kg

記述内容を見てみた

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まずは、百科事典のデータがいつのものなのか、『日本』という項目を見ると

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1ページ目に統計表が掲載されている。最新のデータは1975年。文章はこんな感じだ。

ユーラシア大陸の東側、日本列島に拠る国家。国民は、起源としては多人種より成ると推定されるが、単一言語・単一文化を持つ、世界でも例の少ない一民族国家である。長く国際社会から隔絶した地位にあったが、18世紀中葉の開国以来西欧文化を吸収して、急速に先進国の仲間入りをした。軍事国家への傾斜もあったが、第二次世界大戦の敗戦後平和憲法による平和国家への誓を固め、戦後は目をみはる経済成長率のもとに、自由主義国中ではGNP世界第二位の経済大国の位置を占めた。国際的には多極化構造の中の重要な立場に立つが、国内的には社会福祉・人口過密による公害など、多くの解決すべき問題を残している。現在、天皇を国民統合の象徴とする、議会制民主主義体制を採る。

電子辞書の中に入っているブリタニカ国際大百科事典では…

アジア大陸の東縁に北東から南西にわたって弧状に延びる列島の国。北から北海道、本州、四国、九州、沖縄および周辺の諸島を含む。環太平洋造山帯の一部を構成し、火山が多い。河川は一般に短く急流である。気候は四季の変化に富み、夏は高温多湿で秋に台風が多い。アイヌ系および小数の外国系の人々を除けばほとんど単一の民族構成で、日本語を話す。義務教育は9年制で、就学率99.9%。第二次世界大戦後の1947年に現憲法が施行された。議院内閣制で、衆議院と参議院の2院からなる。国連外交を軸とするが、日米安全保障条約を結んでいる。鉱物資源に乏しいが、近代工業は高度に発展している。石油、木材、鉄鉱石などの原材料を輸入し、鉄鋼、機械、自動車などの製品を輸出する。1960年代からの高度経済成長により、工業生産は自由経済世界では有数の大国になった。なお、日本の呼称は対外的には「にっぽん」が用いられる。

学研の百科事典では、「GNP世界第二位の経済大国の位置を占めた」「社会福祉・人口過密による公害など、多くの解決すべき問題」と当時の状況を語っている部分が現代には当てはまっていない。 電子辞書版も「原材料を輸入し、鉄鋼、機械、自動車などの製品を輸出する」と、数年前までの貿易黒字時代の状況を語っている。

百科事典は書かれた瞬間から情報が古くなってしまう…

そして、学研の百科事典では経済に関するセクションは、つぎのように締めくくられている。

設備投資を主導因とする急速な経済成長は、65年から70年の成長年率12.3%という繁栄を境に大きく変容した。この間に戦後一貫していた労働力の増加も峠を越し、国際収支は赤字基調から黒字に転換、生産能力の拡大は都市部の交通麻痺、郊外の深刻化をもたらした。70年からの不況は物価抑制のための金融引締によるが、その過程で71年12月に円レートの引き上げが行われ、日本経済は新たな局面に入った。

高度成長、私は体験したことがないですが、そういう時代だったんですね。

Wikipediaでは、経済発展と公害問題は、このように記述されている。

第二次世界大戦時の戦時体制を経験した後、物価統制令や傾斜生産方式、外貨準備に伴う割当制など、通産省や大蔵省が主導する護送船団方式により、製造業を軸に高度経済成長を果たした。1968年(昭和43年)、国民総生産 (GNP) ベースでアメリカ合衆国に次いで第2位の規模の資本主義国となった。他の資本主義諸国と比較して失業率も低く、「最も成功した社会主義国家」と言われた時代もあった。1974年(昭和49年)のオイルショックを機に安定成長期に入り、自動車、電化製品、コンピュータなどの軽薄短小産業が急成長する産業構造の転換が進んだ。円高が進む中、比較劣位の産業のいくつかは、競争力を喪失して衰退し、自動車産業など、比較優位で競争力の高い輸出産業は、円高の波を乗り切り、基幹産業として世界でも最高水準の競争力を持つに至った。しかし、製造業では生産拠点が海外に流出する空洞化が進行している。 1990年代前半にバブル景気が崩壊したことによる不況で、「失われた10年」と呼ばれる長期不況に苦しんだ。日本の経済成長率は、高度成長期はもちろんのこと、安定成長期にも欧米を上回っていたが、1990年代以降は欧米や東アジア諸国を大幅に下回っている。

1950-60年代、四大公害病を始めとした大規模な公害の発生から、1967年(昭和42年)の公害対策基本法を始めに水質汚濁や大気汚染などの規制法が相次いで成立した。これを受け、日本企業は、オイルショックのためにマイナス成長下にあった1973年(昭和48年)-1976年(昭和51年)の前後に集中して公害の防止への投資を行い、1970年代以降、大規模な公害の件数が急速に減少した。また、この投資は、オイルショック下の日本経済の下支えの役割を果たしたため、「日本は公害対策と経済成長を両立させた」と言われる。

通信について、学研の百科事典はこのように書いている

日本の通信事業は当初から国営事業として普及、発達した。現在、郵便事業は郵政省、国内公衆電気通信事業は日本電信電話公社、国際公衆電気通信事業は特殊法人の国際電信電話株式会社が受け持つ。郵便事業では財政の赤字、電気通信事業では需要に応ずる設備資金の財源難が問題となっている。

「通信事業は当処から国営事業」云々は、共産主義国家の記述かと思いました (笑


最近話題の原子力発電についてはどうだろうか

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わが国の全発電量に占める原子力発電の比率は順次拡大している。これら原子力発電所の発電コストは単基容量の大型化にともなって下がり、当初は1kWh当たり2.50円で新鋭の火力発電所より若干高いが、100万kWの発電所になると1.80円くらいになると予想されていた。実際に建設してみるとここまでは下がらなかった。その後石油値上がりによる諸資材の値上がりにより金額の数字は石油火力も原子力もふえたが、尚原子力の優位は変わらない。さらに、核燃料の増殖が可能な高速炉の実用によって、発電コストの一層の低下が期待され、長期に渡るエネルギー供給の安定が確保されることが考えられる。

発電所の構成は原子炉の型により原子炉を設置した建物内に多少の相違はあるが、PWR型の場合には図4のようになっている。原子力発電所には幾重もの安全施設があり、予想されるあらゆる事故に際し周辺へ放射線災害を起こさないようになっている。安全性については国家の厳重な安全審査を経てその設置が許可されるようになっている。

今になってみれば、嘘八百の国の宣伝パンフレットをコピーしただけの文章ですね。 図によれば、東北地震でメルトダウンした福島第一原子力発電所は、この百科事典が執筆された時点で既に運転していたようです。


次に、「コンピューター」について調べてみる。学研の百科事典では、「電子計算機の項を見よ」と書かれている。「コンピューター・ミュージック」はその名称で記載されていて、コンピュータは電子計算機という表記。このころからカタカナ語のほうが優勢になってきたのだろう。

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計算機のうち、その演算動作が真空管や半導体などの部品を用いて電子回路の作用によって行われるもの。アナログ計算機およびディジタル(計数型)計算機があるが、現在では単に電子計算機、計算機あるいはコンピューターといえば計数型計算機をさすことが多い。

〜中略〜

機種が異なっても細部を除いては同じ言葉でプログラムできるように工夫されたのが「コンパイラー」言語と呼ばれる一群の言語である。科学技術計算思考のフォートラン、アルゴル、事務処理向のコボル、汎用PL/1などが広く持ちいられる。これらはいずれも数値処理、手続き言語であるが、非手続き言語としては報告書の形式・仕様を指定することにより報告書作成プログラムを造り出すRPG、決定表による処理言語などがあり、

今では使われないような用語や、プログラミング言語しか出てきませんね…

宇宙開発を見てみると、「スペースシャトル」はまだ掲載されておらず、「アポロ宇宙船」はかろうじて掲載されています。

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宇宙船の写真が、オモチャのようなイラスト…。それを除けば、70年代に完結したアポロ計画についての記述は、今でも通じるようなものがありますね。