08 April 2011

大阪維新の会に見る 地域政党の政策が東日本大震災後の世界から取り残されていること

都道府県や市区町村の統一地方選挙が行われる。私が居住している大阪では大阪維新の会という地域政党が「地域主権」を掲げて議会過半数を伺っているそうだ。

大阪維新の会の目指すものが、東日本大地震後の世界・日本の動きと既にずれてしまった点について、感じたことをまとめてみた。

■ 要旨
・空港、港湾、高速道路、鉄道のインフラ整備は経済的合理性が無いだけでなく、その費用は東北の復興に使うべき。
・WTC庁舎移転は防災上の誤り。
・強大な権限を持った大阪都や道州制は日本の統一を瓦解させる可能性あり。


■ 大阪維新の会の成長戦略の 「企業活動を活性化させる空港、港湾、高速道路、鉄道のインフラを整備」について

経済評論家 野口悠紀雄氏によれば東日本大震災による損害額は25兆円と推定される。今後数年間にわたって毎年数兆円の復旧・復興予算が必要で、財務大臣は今年度の公共工事予算5兆円の約5%(約3000億円)を凍結して復旧費用に充てる旨の指示を出したと報道された個人のblog「この国を考える」の主張で『不要不急の予算を震災復旧復興財源に回すのは当然だ』というのは誠に同感だ。

そんな状況のもとで、高速道路や鉄道建設をこのまま進めるべきなのだろうか。2008年9月のJMMで経済評論家 水牛健太郎氏が述べるように『鉄道だけでなく、高速道路にしても、電気・電話網の構築にしても、かつての公共投資は生活を一変させるような力を持っていましたが、今の日本でそうした投資の対象はもうないのが実情』です。 そして、信州大学教授 真壁昭夫氏が述べるように『バブル崩壊後90年代初頭以降の、雇用を維持するために、箱モノ作りに重点を置いていた公共投資を続けていると、いつまでたっても、わが国は経済低迷から抜け出すことが難しくなる』ことは多くの経済の専門家も認めるところだ。

維新の会マニフェストに書かれたこの主要政策は、311以前の経済学上も否定されていただけでなく、311後に東日本の復興に必要な費用を支出するためにも完全に否定されるだろう。 将来のインフラ工事だけでなく、現在建設工事中の阪神高速道路の工事も全て中止して、その費用を東北地方の復興に充てるのが正しいのではないだろうかと思う。


■ WTC 臨海新都心 への自治体庁舎(司令塔)移転と防災について

2009年の大阪府議会で橋下知事はWTCは行政上、政治上対策を講じなければならないレベルの防災機能は確保できている』と述べている。また、『津波があれば、指揮官は見えるところで指示を出すのが重要。最前線のベースキャンプとしてWTCの頂上から指示を出す』とも述べ、臨海部を世界有数規模のハイテク関連産業集積地にするという計画がある(すでに、シャープの太陽電池パネル工場やパナソニックの二次電池工場等、多数立地し始めている)そうだ。

産経新聞によれば、今回の東日本大震災による揺れで、南港のWTC(現在は府庁咲洲庁舎という)は『階段壁面のパネル落下や100カ所以上のひび割れ』が起こり、『51階のスプリンクラー1カ所が破損し48階まで水漏れ』し、『エレベーター4基に5人が最大約5時間、閉じこめられた』そうである。震度2か3程度の揺れでこの被害である。

これが、東南海地震や直下型地震が起きればどうなるのか。今回の東日本大震災で千葉県浦安市の臨海地域(埋立地)の高層マンションが、液状化現象で建物周辺の上下水やガス配管が完全に破壊されてしまったところもあるそうだ。

高層ビル難民。地震が起これば高層ビルは完全に孤立化する可能性がある。特に、窓が開かないWTCのようなオフィスビルが停電して、空調が完全に止まった場合どうなるか。真夏なら、すぐに室内温度は40℃を超える。高層マンションに住んでる私の実体験でもそうである…
水道が止まればトイレは使えず、もちろんエレベーターも使えないので地上に給水車が来たとしても、取りに行くことすらままならない。個人の家(マンション)なら居住人員も少なく、少々の食料や水の蓄えで1週間くらいなら籠城できるだろうが、何千人も勤務するオフィスビルで衛生状態を保ったまま籠城することは、想像すら出来ない。

元官僚で、佐賀市長でもあった木下敏之氏が述べるように『浦安市のような埋め立て地で地震が起これば、液状化現象が発生するリスクがあることは、前から分かっていたことです。いったん埋め立てをしてしまえば、地中の下水管に後から液状化防止対策を打つことはなかなかできません。阪神・淡路大震災の時には、神戸のポートアイランドがやはり液状化で大きな被害を受けました。』というのが常識的な判断だろう。

こんなことは今分かったことではなく、専門家の間では以前から分かっていたことだ。殿のご乱心を、恥をかかないように事前に止めるのが「取り巻き(維新の会)」の仕事であるとおもうのだが、実際には物を言わない従順なだけの御家来衆なのだろうか。


■ 大阪都について

大阪府特別顧問の上山信一氏が「「大阪都構想」への誤解を解く」で『大阪都の誕生でそれが解消する。いよいよ国の権限を奪取できる』と述べている。本当にそれが正しいのか。

今回の311東日本大震災で福島第一原子力発電所が、チェルノブイリ原子力発電所事故に匹敵する大事故を起こし、今現在も大気中や海水中に放射性物質を大量に垂れ流している。海外では「周辺の土壌汚染は史上最悪か、日本政府の対応遅れが致命的」のような報道もされているが、日本政府の報道管制により実際のところは全然分からない。事故は国家の範囲を越え、北半球といった世界的レベルで広がりつつあり、放射能汚染された排水の放流には近隣諸国から国際法違反で懸念が伝えられ、農産物だけでなく工業製品ですら世界各国で放射能汚染を理由に突き返され、兵庫県産と偽って輸出したキャベツからは高レベルの放射能が検出されてシンガポールから送り返されてきたりしている。(日本の農産物の産地偽装が当たり前というのは世界的に知られるようになったが、さすがに、ハクサイをキャベツと名称まで偽るのは、外国の人々をバカにしてるだろう)

このような全世界の人々を震撼させるような事態が起こっている真っ最中に、福島県知事は「県産の農産物や加工食品、工業製品への風評被害拡大を防止するよう、菅直人首相に文書で要望した」そうだ。 福島県のことだけ考えればこのような発言になるのだろうが、もっと日本全体のことを考えられないものなのかと感じてしまう。

都道府県がこれ以上の権限を持つとどうなるのか、大阪都のように「国の権限を奪取」して国の統一が成り立つのだろうか。国家全体としての判断を打ち消して、「我も我も」と好き勝手なことを各県、各道州がやってしまえば日本は瓦解し内戦が発生するか、隣国に支配されてしまうかもしれない。