11 February 2015

人口減少で大阪都構想は破綻。やっぱり特別市構想

2月11日のMBSテレビのニュース番組で、維新の会の橋下市長と、自民党の柳本市議が持論を述べていた。

番組を見て、さらに維新の会の「大阪都構想」のホームページや、現代ビジネスに掲載された「内閣官房参与藤井教授の記事」を読み、自分なりに問題点をまとめてみた

二重行政がダメだとして、解決手法には何があるのか

柳本市議が番組でチラッと発言して、橋下市長がすかさずもみ消していた「特別市」を含め、3種類の解決方法が、政治の世界では考えられているようだ。

・特別区 (大阪市を解体する大阪都構想)
・特別市 (大阪市が府から独立して、府を排除)
・府・市の広域戦略協議会

特別市とは

『国 ・ 県 ・ 市』の3段構造の権力構造を、特別市域から県を排除することで、『国 ・ 特別市』の2層構造にすること。協議会(自民党案)やら、補助金(都構想)やらというものでお茶を濁すのではなく、スッキリしているのが特別市。

『都市間競争!』を煽る安倍首相や橋下市長などの経済成長派がライバル視する、アジア諸国の大都市は、県を排除して二重行政問題を解決した特別市だ。日本でも戦後すぐに特別市を造ろうと機運があったが、地方部へのバラマキのために法令で封じられてしまったそうだ。(Wikipediaの記事「特別市」より)

大阪都になると、現 大阪市から郊外へ税金が流出

都構想賛成派からは、「市外に使われないよう監査する」。反対派からは「首長が変われば、なし崩しになる」。いまだに存在しない大阪都でどうなるのかは、推測だけの水掛け論に過ぎない。さらに、現在の経済状況で「市外に投資される」などという、まるで税金が余っていて投資先を探しているような余裕のある議論だ。 (実際に、今の自治体は実質的に破綻していて余裕はないはずだが…)

人口減少で経済縮小が止まらない数十年後

想像をふくらませて、数十年後、人口減少が進んでいる日本を想定してみよう。 人口動態の推測は、経済予測より遥かに正確に行えることが、多くの経済専門家も同意するところだ。その人口動態予想から、生産年齢人口の減少が総人口の減少より急ピッチで起こることが推測されている。

経済成長は、労働者数 × 投下資本量 × 全要素生産性 の乗数関数で表されるが、投下資本量と生産性が一定という超楽観的な仮定のもとでも、労働者数(生産年齢人口)の減少とともに経済も収縮していくと想定される。 (全要素生産性は、1955年に米国の45.8%、1995年に95.1%にまで高まった後減少を続け、2010年には85.2%。 朝日新聞2015/02/13 岡崎哲二氏)

高齢者数は(総人口も)それほど急ピッチでは減らないため、1人あたりのGDPは徐々に減少していくこととなる。

増田レポート(東洋経済の記事)が有名だが、大阪府内でも多数の自治体が財政破綻し消滅する可能性があるというのは、数十年後に確実に起こり得ることだ。

すでにその影響は首都圏でさえ現れていて、郊外鉄道の運行本数が減ったり、郊外の住宅価格の下落が止まらなかったりしている。

郊外都市が消滅の危機にある時、ワン大阪で都心が郊外を助けるべき

結局、大阪市域の税金は「びた一文 市外には出しません」というのは通用せず、人道的観点から、あるいはバラマキ政治のツケの精算のため、市外に流出し放題になるはず。

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人口の集約化(コンパクトシティ化)を進めるために

人口を集約させたほうが、都市機能の維持コストを低く抑えることができる。このことから、国土交通省も最近になり拠点都市への集約を進める「コンパクトシティ化」を推進している。

人口がどんどん減少して行き、疎らになった郊外で何が起こるか…

・都市機能の維持費用が、地元の収益では賄えない。
・管理が行き届かない地域は、どんどん荒廃する。

そんな時に、集住で比較的低コストで生活できる「旧 大阪市」と同じ自治体 『ワン大阪』であったとしたら…

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都構想を示すこの図で「都に移る」消防と下水道を例にとり、推測してみよう

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郊外で救急患者が出た。消防ヘリを頼む

現在でも、緊急事態では消防力の融通は行われています。しかし、それは別自治体に対して遠慮がちに頼むものであり、「ワン 大阪」で一体化したから、恒常的に運行しろという事態が起こることは確実です。

集住が進んだ都心部では、救急車の到着時間も早く、病院も多い。郊外はその逆。緊急事態がどちらで多く起こるかは自明で、本来市役所の仕事である消防を統合してしまえば、火災や救急という「生命に関わる緊急事態」で市域外出動が常態化、税金がなし崩し的に流出するかもしれません。

下水幹線が崩落して大洪水だ。工事費用すら出せない

現在でも郊外の農地が広がるような地区まで下水道を引く工事を続けている大阪府。下水管にも寿命がありますし、もちろん、地震などがあれば崩落もするでしょう。

下水管は大阪市域でほぼ完結し、隣接市とは接続されていません。そもそも統合する意味すらありません。下水に注入する薬剤を、購入規模を大きくすることで安価に上げるという理由は、ありえません。現に、東京電力と中部電力は別会社であっても燃料の共同購入を行っています

そもそも下水道の必要性が薄い郊外にまで下水管を掘っていく費用を、大阪市民に出させると邪推したくもなりますが、そういうことは「公約通り無い」とすれば、一つの組織内で2つの会計処理をしてまで(余計なコストと手間を掛けて)合併させる必要はありません。

百歩譲っても、大規模災害など緊急時でも流用しないという保証はどこにもありません

※ 個人的には、地下鉄を民営化するのに、下水道は民営化の検討すらしていないのは公共工事バラマキの魂胆があると見ています。(主要国では民営化が主流。日本の公営は旧態依然のシステム)

上下水料金を大阪市域と郊外で統一するのが平等だ

人口密度が低く広大な郊外で、1人あたりのコストが高いのは当たり前です。大阪市の前市長であった平松さんは、水道の合併に反対したのはまさしくこの理由です。

集住が進み、先人の努力で戦前に上下水を完成させて減価償却も済んだ大阪市の上下水料金が、郊外より格安でも、それは不公平ではありません

しかし、大阪市が解体され都に吸収されれば、維新の会の悲願の上下水合併が行われ、平松さんが阻止した料金値上げも、ワン大阪として不公平だとして行われることが予想されます。

資金の流出はあり得る

大阪市域から集められた税金は、高い確率で市外に流出すると思われます。 統合される下水道の料金も確実に周辺自治体レベルまで値上げされると思います。

府が特別区に与える交付税は減額されないか

いま、大阪市が独自に徴収できる市民税の大部分が、大阪都に移管されます。これを、大阪都の恣意的裁量で減額されたり、減額された分が現在の市域外に流出することはないのか。

テレビで橋下市長は「ありえないこと」と否定しました。維新のホームページにも、市外に流出させるとは書かれていません。しかし、交付税の額を決めるのは都知事であり、都議会であって、有権者の7割が現 市域外であることから、流出はあり得るというのが柳本市議の意見です。

先月、沖縄の選挙で政府与党が支持する全知事が負け、野党が支持する候補が勝利しました。その結果、全知事の時に国が支出するとしていた予算がカットされたとの報道もあります(沖縄振興費が減額 知事に圧力 時事通信 2015/01/14)。 特別区域から吸い上げた税金は、必ずその地域に配分するのであれば、徴税権まで取り上げる必要はありません。
再配分の手間だけ二重行政です。知事や議会の裁量で区域外に使われる可能性はありますし、法令的には可能でしょう。

戦略的投資という、時代錯誤を豪語する維新の会

番組を見て思ったのだが、成長戦略を問われた橋下市長が例示したのは「JRなにわ筋線の建設」や「関空を結ぶ高速鉄道」。ほとんどの大阪市民にとって、税金の払い損になるだけだと思います。

人口も減り、経済も縮小していく中で、また不良資産を作るのでしょうか。WTCビルやりんくうゲートビルは、話し合いで1箇所にまとめればよかったのではなく、大阪の経済力では1つでさえ必要もなかったが結論です。そもそも、大阪市民のほとんどは、「関空に5分程度早く着けるJRなにわ筋線を数千億円出して作りたいか」「なにわ筋線の数倍の価格と、膨大な維持費を支払う新幹線を関空に通したいか」です。他人の金で、派手なものを作って欲しいという、従前の他力本願の夢に過ぎないと思います。

大阪都構想より、大阪特別市

都会から郊外への所得移転は、国税(地方交付税)ですでに行われています。現在は県税(府税)でも行われているだけでなく、二重行政と言われているように大阪市と重複する府の施設の分まで、大阪市民の納税が充当されています。

大阪市民で、市立中央図書館や各区の図書館を使う人はいると思いますが、東大阪にある大阪府中央図書館を使う人はどれだけいるでしょうか? この大阪府の図書館にも、大阪市民が払った府民税が充当されているんです。 (たとえば、泉佐野市からこの図書館を利用するのも想像も出来ない。こういう不公平がある為、市でできるハコものを都道府県がやる必要はないと思う)

現状の『国 ・ 県 ・ 市』の3層の支配構造より、都構想はもっとひどくなる予感がします。ちゃんと制度設計がなされて、協定書に「いかなる事態でも市域・市外の資金の流用は行わない。予算も人員も完全に分けて管理し、緊急時でも政治家の判断によっても流用できない」と規定されない限り、自民党の柳本市議が言うように、流用は必ず起こると思いました。

大阪市民の立場では、国の出先機関的な警察を除き、大阪府の行政サービスがなくても何も問題はないと思われます。であるなら、現在の府民税の支払いは、全く無駄ということになり、大阪特別市となり立場を強くするのが最善の方法かと思いました。 大阪の経済規模や成長性を遥かに越える、上海やソウル、欧州の工業国ドイツのベルリンなども特別市です。 大都市を切り刻んで権限を剥奪するような例は、主要国では行われない例外です。

大阪市民の皆さんで、大阪府の「○○(施設名)」が無いと困る人はほとんどいませんよね。じゃあ、大阪都ではなく、大阪特別市を目指しませんか?

と、中途半端な結びにしてみます (笑

参考資料

大阪府内の消滅可能性自治体

中央公論2014年6月号に掲載されている増田レポートから

能勢町-81.48%
豊能町-79.8%
千早赤阪村-73.5%
河内長野市-59.8%
河南町-58.1%
岬町-56.8%
富田林市-56.8%
西成区-55.3%
大正区-54.3%
住之江区-53.6%
中央区-53.6%
柏原市-53.4%
寝屋川市-50.9%
浪速区-50.0%

将来の人口推計

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生産年齢人口・高齢者人口の将来推計グラフ (〜2060年) 出典 内閣府経済社会総合研究所

過去20年の主要国GDP推移